研究課題/領域番号 |
04041114
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 中央大学 (1993) 国立民族学博物館 (1992) |
研究代表者 |
宮本 勝 中央大学, 総合政策学部, 教授 (40110085)
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研究分担者 |
AWANG Hasmad マレーシア国民大学, 社会科学人文科学部, 助教授
PATRICIA Reg サバ博物館, 館長
MATUSSIN Oma ブルネイ博物館, 館長
PETER Kedit サラワク博物館, 館長
佐藤 浩司 国立民族学博物館, 助手 (60215788)
内堀 基光 一橋大学, 社会学部, 教授 (30126726)
染谷 臣道 静岡大学, 人文学部, 教授 (20091548)
AWANG HASMADI Awang Mois Associate Professor, Faculty of Social Sciences and Humanities, National Univers
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研究期間 (年度) |
1992 – 1993
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研究課題ステータス |
完了 (1993年度)
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配分額 *注記 |
26,000千円 (直接経費: 26,000千円)
1993年度: 13,000千円 (直接経費: 13,000千円)
1992年度: 13,000千円 (直接経費: 13,000千円)
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キーワード | ボルネオ / サバ / サラワク / ブルネイ / 社会経済変動 / 文化的適応 / 法文化 / 物質文化 |
研究概要 |
本調査研究の目的は、ボルネオの諸民族が国家規模の社会経済変動に対して旧来の法文化、言語世界、物質文化・技術体系、価値志向をいかに適応させてきたかを明らかにすることにあり、そのために東マレーシアのサバ州、サラワク州、およびブルネイで面接・参与観察にもとづく現地調査が実施された。 サバ州での調査を担当した宮本は、トゥアラン地区に伝統宗教の保持者、キリスト教徒、イスラーム教徒の混在するドゥスン族の農村があることを確認した。この地域では、イギリス植民地時代にキリスト教の宣教活動が開始されたが、多数のドゥスン族がイスラームに改宗したのはサバ州がイスラーム政権下にあった1970年代である。彼らの選択は概して、農村開発・農業近代化政策を重視した州政府・中央政府から予算を獲得するための戦略によるものだった。今日、これらの農村には、ドゥスン固有法(慣習法)、キリスト教法、国家・州法、イスラーム法が併存し複雑な法文化が形成されているが、村人間に生じた紛争の多くは、他の3種の法との衝突を避けるように調整が加えられた固有法に基づいて処理されている。同様の状況は、ピタス地区のルングス族の農村(イスラーム化の度合いは低いが)でも確認された。サラワク州のイバン族、スラコ族を中心に調査を行なったピーター、アワン・ハスマディは、政府の開発政策や世界経済の浸透がもたらした急激な社会経済変動に直面した村人たちが従来の固有法・価値志向を再編成することによって新しい状況に対処し、それが彼らの民族的アイデンティティの要となりつつあることを明らかにした。 内堀は、サラワク州ではスリアマン省とリンバン省のイバン族のロングハウス共同体で、ブルネイではイバン族とドゥスン族が混在する農村で調査を実施した。スリアマンのイバン族は、焼畑稲作・狩猟中心の従来の生業に従事し生活が困窮化したために、旧来の慣習・固有法の維持すら不可能になりつつあるのに対して、リンバンに移住したイバン族は、商業的森林伐採作業を通じて高額の現金収入を得るという戦略を選択し、今日、旧来の慣習・固有法が固定化されるに至ったことを明らかにした。ブルネイの調査では、中央政府のイスラーム化政策の下でイバン族のイスラームへの改宗が近年急速に進みつつあり、キリスト教の影響が強いサラワクのイバン族とは法文化の状況が異なることを確認した。これらの事例は、生業経済や政策の相違によって同一民族の適応形態がかなり異なることを示唆している。 東マレーシアを構成する諸民族には外国からの移住民も含まれる。染谷はサバ州各地でジャワ移住民の調査を実施した。同州に労働者として移住した(日本軍制期には移住を強制された)ジャワ人は、今日、都市の居住者として社会的経済的上昇移動を可能にした人々と農村に住み上昇移動を果たせなかった人々の2つのタイプに分けられる。両者ともにサバ州の社会経済に果たしてきた役割は極めて重要である。染谷は、ジャワ移住民がジャワ的ムスリムとしての民族的アイデンティティを保持すると同時に、移住先の諸民族との調和的共存を目指す戦略に沿って自らの価値体系や言語体系を巧妙に駆使し、あたかも異国に同化するかのごとき適応を遂げてきた側面を明らかにした。 東マレーシアとブルネイにおける急激な社会経済変動は、技術体系・物質文化の面にも強い影響を及ぼした。佐藤は、サラワクとサバの諸民族の住居の実測調査と伝統的家屋の変容過程についての調査を実施した。サバ州のロングハウス解体過程に注目し、そこにはサバのマレーシア連邦加入以降の村レベルでのリーダーシップの拮抗、政府の農業近代化政策、宗教政策が深く関わっていたことを明らかにした。パトリシアとマトゥシンも、商業的森林伐採活動、政府の国民統合政策や観光推進政策等の外的インパクトによって、「もの」(例えば衣服)の素材や意味に大きな変化が生じたことを明らかにした。 招へい研究者のピーターとパトリシアが来日した平成6年2月に研究会を開催し、この調査研究の成果を早急に公表するために、Cultural Adaptation in Borneo(ボルネオにおける文化的適応)という表題のもとで国立民族学博物館の機関誌Senri Ethnlogical Reportsの特集号として1995年3月に刊行することを協議決定した。
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