研究概要 |
1.アメリカにおける地域研究の実態について視察した。視察対象とした研究所は次のようである。 (1)ウッドロー・ウィルソン国際センター,(2)ジョンズ・ホプキンス大学国際高等大学院,(3)ノース・カロライナ大学チャペル・ヒル分校南部史文書部,(4)カルフォルニア大学ロス・アンジェルス分校アメリカ諸文化研究所,(5)カルフォルニア大学バークレー分校国際地域研究所,(6)ウィスコンシン大学国際地域研究所,(7)コロンビア大学の7つの地域研究所,(8)ハワイ大学イースト・ウエスト・センター 2.アメリカにおける地域研究の特色 (1)地域研究を独自の研究分野とみなしていない:東アジア,東南アジア,南アジア,アフリカといったような地域区分による地域研究が行われているが,それらがディシプリンのような扱いを受けているわけではない。特にそれが顕著に見られるのは,学位においてである。すなわち,修士号を出す研究期間は多いが,博士号を出す機関はほとんどない。博士は,各ディシプリンの称号として,各学部から出されている。それは地域研究がディシプリンとして独立していないというだけでなく,地域研究の博士号では,実際的な就職が難しいという事情とも関係している。 (2)既存のディシプリンによる地域の比較研究に傾斜している:上記の認識と相関しているが,一地域での研究の成果がそれほど上がらなかったという反省にたって,複数の地域の比較研究に傾く例がある(ウッドロー・ウィルソン国際センター)。ここでも,既存のディシプリンによるという注釈をつけなければならない。これは今後の地域研究のひとつのあり方を示すものである。 (3)地域研究は実験的な政治的・経済的な問題と相関している:アメリカの地域研究は,第2次世界大戦後のアメリカの世界戦略と密接に関係してきた。そのため,より実際的な政治・経済などの問題を中心的トピックとしてきた。その方向は現在でも変わらず,さまざまな現在的トピックを研究対象としている。これは,一方において,研究資金の問題ともかかわっている。すなわち,こうしたトピックを取り上げることによって,研究資金が得られるということである。また,地域研究機関は,各地域の政治的・経済的専門家を作り出すための機関でもあり,その教育機関しての機能も重要である。なお,語学への重要視は特筆するものがある。 (4)地球的な現象に対する研究を開始:前項と関係しているが,ソ連の崩壊後,アメリカの世界戦略が大きく変わった。すなわち,東西冷戦という2極化から多極化へと変化した。その変化に合わせて,新たな世界戦略を必要としている。そのために,そうしたトピックに研究資金がつきやすく,世界全体を見渡したような研究を志向し始めている。しかし,それがうまく進行しているとはいい難い。まさにこうした問題をこれからどのようにして研究してゆくかの模索している段階にあると思われる。(2)に述べた傾向は,その先駆的なものである。 (5)各地域研究相互の関係は薄い:世界的な問題を取り扱うことを難しくしているのは,各地域研究の排他的自立性である。先の世界戦略研究は,資金力の弱い研究機関に顕著に見られるが,コロンビア大学の各地域研究所のように資金的裏付けのある研究機関では,従来通りの地域研究が進められており,研究機関相互の交流はほとんどない。もともと,地域は独自なものであり,研究者はその内に籠りがちなものであり,当然といえば当然の現象である。これを変えるひとつの要因は研究資金である。 (6)客員教授の重要性:地域研究においては,客員教授あるいは客員研究者は3つの点で重要である。第1に現地研究者の参加,第2にトピックに応じた専門家の招聘,第3に研究資金に応じた人員の適正化においてである。第3の点はアメリカでは特に重要である。
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