乳がんの発生要因と臨床病理に関する日本・インドネシア共同研究

• 研究課題/領域番号: 04042013
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: がん調査
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 大野 良之 名古屋大学, 医学部, 教授 (10160590)
• 研究分担者: DRUPADI Dill インドネシア大学, 医学部栄養学, 栄養士 ; JOEDO Prihar インドネシア大学, 医学部地域医療学, 講師 ; MUCHLIS Raml インドネシア大学, 医学部中央病院, 腫瘍外科医師 ; GUNAWAN Tjah インドネシア大学, 医学部解剖病理, 乳腺病理主任 ; SANTOSO Corn インドネシア大学, 医学部免疫研, 主任 ; 鈴木 貞夫 名古屋大学, 医学部, 助手 (20226509) ; 渡辺 進 癌研究会付属病院, 外科, 外科医長 ; 坂元 吾偉 癌研究会癌研究所, 病理部, 主任研究員 (80085620) ; DILLON Drupadi. Department of Nurtrition University of Indonesia School of Medicine ; PRIHARTONO Joedo. Department of Community Medicine University of Indonesia School of Medicine, Lec ; RAMLI Muchlis. Division of Surgical Oncology, University of Indonesia School of Medicine, Docto ; TJAHJADI Gunawan. Department of Anatomic Pathology University of Indonesia School of Medicine, Hea ; CORNAIN Santoso. Laboratory of Immunology, Dept. University of Indonesia School of Medicine, Head
• 研究期間 (年度): 1993 – 1994
• 研究課題ステータス: 完了 (1993年度)
• 配分額: 8,400千円 (直接経費: 8,400千円); 1993年度: 4,200千円 (直接経費: 4,200千円); 1992年度: 4,200千円 (直接経費: 4,200千円)
• キーワード: インドネシア / 乳がん / 症例対照研究 / リスク要因

研究概要

本課題による研究はインドネシアにおける女性乳がんの発生要因の解明が主目的で、分析疫学研究の一手法である症例対照研究を実施することである。
症例対照研究は、平成元〜3年度を第一期、平成4〜5年度を第二期として実施した。第一期の症例対照研究は、症例300例と対照600例の直接問診による疫学資料収集がすでに終了し、最終分析成績が本年度に得られた。第二期の症例対照研究は、直接面接による栄養問診資料の収集として継続実施中である。本症例対照研究における症例と対照の設定は第一期、第二期ともに同様であり以下のとおりである。症例は、インドネシア大学医学部中央病院の腫瘍外科にて新たに診断され、病理組織学的に確診された女性乳がん例(年齢25〜69歳、他の悪性新生物罹患例は除外)である。対照は、症例と同性(女性)・同年齢(±3歳)・同入院/来院時期(±3カ月)で、社会階層も対応させた同一病院の入院/外来通院中の悪性新生物非罹患の一般患者である。対照は症例1名に対し2名を設定した。第一期における症例対照研究の疫学資料は腫瘍外科の看護婦2名が症例と対照に直接面接して収集した。収集した主な疫学情報は、年齢・宗教・出生地・最長成育地・人種・最終学歴・職業・婚姻状況・夫の年齢と職業・初婚年齢・乳房外傷歴・最重体重とその年齢・現在の身長体重腰囲臀囲・初潮年齢・月経の規則性・平均月経期間・平均出血期間・閉経状況(閉経前、自然、人工)・初交年齢・妊娠回数(出産・死産・流産など別)・最終妊娠年月日・授乳経験の有無・授乳児数・平均授乳期間/児・血液型・避妊経験の有無と避妊方法・ホルモン性避妊剤使用歴・喫煙習慣・飲酒習慣・ガンの家族歴と続柄・入院歴と理由・放射線被爆歴・食品(9種類)と飲料(5種類)の摂取頻度、などである。第二期における症例対照研究の疫学資料はインドネシア大学栄養学部の栄養士2名が症例と対照に直接面接して収集した。収集した主な疫学情報は、第一期の疫学情報に加え、結婚前と後における約70種類の食材料の一週間あたりの摂取頻度と摂取量である。摂取頻度と摂取量の積から得られる各個人の各栄養素摂取量/週を食品成分表の電算機ファイルを用いて換算・算出した。第二期の症例対照研究で当該年度に得られた中間成績については前述したが、少数例に基づく成績であり結論的でない。
第一期の症例対照研究疫学資料を、閉経前乳がんと閉経後乳がんに分けて、相互に交絡する要因の影響を調整して検討するために、多変量解析(unconditional logistic analysis)を実施した(分析症例対照数は、閉経前乳がんについては135症例、329対照、閉経後乳がんについては162症例、271対照)。その結果、閉経前乳がんの発生リスクを有意に上昇させる要因は、乳房外傷歴あり(調整オッズ比2.62、以下同様)、避妊剤使用歴あり(4.96)、近親者にがん罹患者あり(1.99)、ミルク毎日飲用(1.81)、新鮮な果物毎日食用(1.40)であり、調理済野菜毎日食用(0.34)は閉経前乳がんの発生リスクを有意に低下させる。一方、閉経後乳がんの発生リスクを有意に上昇させる要因は15歳以上で初潮あり(2.25)、30歳以上で月経が規則的(4.61)、ミルク週に3〜4回飲用(7.96)、ミルク毎日飲用(5.84)である。閉経後乳がんの発生リスクを有意に低下させる要因は、結婚後離別死別(0.33)、腰囲/臀囲が0.80-0.89(0.70以下に比べ)(0.44)、授乳児数3〜5(0.29)あるいは6以上(0.32)である。さらに、人工閉経と喫煙経験ありは、閉経後乳がんの発生リスクを上昇させる傾向のある要因として注目される。
第二期症例対照研究の実施に際して、問題点としては以下の2点が明らかとなり、それぞれに対して以下のような解決方法をとった。その1は、対照2名のうちの1名にはビタミンAやベータカロチン、性ホルモンなどの測定のための採血を当初の条件とした。その結果、対照の収集数は症例数の約1/3の割合でしか不可能である状況が約1.3年間続いた。対照例の効率的な確保のためには採血条件を解除する以外に解決策はないと判断した。その2は、栄養問診資料から各栄養素を換算算出ためにはインドネシア食品成分表を使用するが、その中には目的とする栄養素成分が一部含まれていないことが判明した点である。それに対しては東南アジアの食品成分表を参照することとした。しかしさらに成分表に未収録のいくつかの食材料については、栄養素成分の分析を国立栄養研究所に依頼することとした。