研究分担者 |
GUHA Smit セント, ステファンズ・カレッジ, 講師
DEWEY Clive レスダー大学, 講師
CHAUDHURI B. カルカッタ大学, 歴史学部, 教授
杉原 薫 ロンドン大学, アジアアフリカ学院, 上級講師
STEIN Burton ロンドン大学, アジアアフリカ学院, 教授職研究員
ROBB Peter G ロンドン大学, アジアアフリカ学院, 上級講師
粟屋 利江 東京大学, 文学部, 助手 (00201905)
脇村 孝平 大阪市立大学, 経済学部, 助教授 (30230931)
大野 昭彦 成蹊大学, 経済学部, 助教授 (20176960)
水島 司 東京外国語大学, AA研, 助教授 (70126283)
中里 成章 神戸大学, 文学部, 助教授 (30114581)
谷口 晋吉 一橋大学, 経済学部, 教授 (50114955)
清川 雪彦 一橋大学, 経済研究所, 教授 (60017663)
GUHA Sumit ヤント, ステファンズ・カレッジ, 講師
CHAUDHURI B カルカッタ大学, 歴史学部, 教授
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研究概要 |
1.本研究は、イギリス支配期のインドの農業経営のあり方が、農家副業、農村工業などの影響を受けつついかに変容したかという点を、ロンドン大学アジアアフリカ学院(SOAS)南アジア研究センターをカウンターパートとして、日英印三国の研究者が共同で研究することを目的とした。計画の第1年度(1992年)、イギリスにて資料収集と共同研究に従事し、7月には、米・仏などを含め20名の研究者の参加を得てロンドン大学にてワークショップを開き、8本の報告をめぐって検討を加えた。第2年度(1993年)には、英・印・バングラデシュでの資料収集と共同研究を行なう一方、11月には英国より2名の研究分担者(杉原薫、ピーター・ロッブ)を招いて東京にてワークショップを開き、論文の検討を行なった。 成果は、個別論文として学術雑誌等に発表されるものの他、P.Robb,K.Sugihara,&H.Yanagisawa eds.,Local Agrarian Societies in Colonial India:Japanese Perspectivesとして、ロンドン大学SOAS南アジア研究センターの事業として、インドあるいは英国の出版社から刊行されることになっている。 2.本研究によって明かとなった主な点は、以下のとおりである。 (1)18世紀以前の南インドでは、10ヶ村程度を単位して物的、社会的な再生産がなされてきたが、18世紀には、この大きな再生産単位は有力個人の成長に伴って崩壊しつつあった。この崩壊を進めた要因としては、国内外に発展した交易関係と、そこを通じての有力個人の形成・発展が重要であった。 (2)東インドでも、富農的階層の存在が既往の研究から明らかとなっているが、本研究では18世紀が富農層の成長期であったことが示された。彼らは、周辺の貧農や労働者層を従属させて、村落内では指導者層として機能した。 (3)移民の影響が特に顕著であったのは、南インドであった。ここでは、移民の増大によって富農経営内の隷属労働者の自立性の強化が見られて、大規模経営から小規模経営への漸進的移行が見られた。この点では、日本における小農自立の過程との比較が可能である。 (4)小規模生産の意義という点では、インド土着の砂糖生産が労働集約的な技術改良を採用して、近代的精糖工場に対する競争力を維持したことが、注目される。高い労働吸収力を持ちながら、工場との市場競争力を維持しているという点で、この産業は適正技術の一つのあり方を提示している。 (5)他方、19世紀末以降のベンガル農村の土地移動のあり方が、地域毎に統計的に分析されたことも、本研究の成果であった。その中では、農民の下からの発展のあり方が示された。 (6)植民地期インドを特徴づける飢饉と死亡率との関係は、大きな問題であった。本研究では、北インドに即して、飢饉は直接餓死をもたらすわけではないが、疫病マラリヤの蔓延を促進して死亡率の増大をもたらすという、メカニズムが解明された。徳川期日本における人口変動と大きく異なっていたことが分かる。 (7)1930年の南インドの小作法形成は、強力な地主と貧困な小作人という図式では捉えられないこと、イギリスによる現状把握の問題、家族制度の変化、など多様な要因が絡んでいたことが明らかになった。 (8)既往のインド研究においては一部を除いて、インド農村をダイナミックに変革する要因は農業外に、またインド外に求められていたが、本研究は全体として、インド農村内で内的な諸力が形成されていたこと、とくに旧来は停滞性を表示するものと見られていた小規模生産の中にダイナミックな展開力が存在し得ることを、主張するものとなった。日本との比較の視点をもつことによって、新たな視角を提供するものとなったといえる。
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