研究分担者 |
高橋 均 新潟大学, 脳研究所, 助教授 (90206839)
小柳 清光 新潟大学, 脳研究所, 助教授 (00134958)
郭 玉璞 中国, 中国医学科学院, 教授
劉 多三 中国, 白求恩医科大学, 教授
王 慕一 中国, 中国医科大学, 準教授
YU-PU Guo Peking Union Medical College Hospital, People's Republic of china, professor
MU-YI Wang Chinai Medical University, People's Republic of China Associate Professor
DUO-SAN Liu Bethune Medical College, People's Republic of china, Professor
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研究概要 |
本単年度研究課題が発足する前に,実は同じ研究課題(番号01044058)が3ヶ年実施された後,本課題に継続したものである。即ち,古くからの研究対象であった欧米の脱髄性脳疾患に比べ,日本における脱髄性脳疾患の病態はそれらと異なっていることが1970年以来の我々の日本共同研究等で明らかにされてきた。 他方,世界の4分の1の人口を占めながら,その実態が殆ど知られていない同じ東洋人である中国の脱髄性脳疾患は日本や米国例ともまた異なる特異性をもつ可能性が疑われた。このため本研究は,中国の脱髄性脳疾患剖検例を日本並びに米国の剖検例と比較検討し,その「実態の一部」でも明らかにし,世界の盲点の一つを埋めることを目的として平成元年度に発足し3ヵ年が過ぎた。第1年度は天安門事件で大きな計画変更に迫られたが第2,第3年次は予想以上に進展した。すなわちまず中国の文献でその存在が疑われていた施設を徹底的に調査した。その主な施設名は,ハルビン医科大学/ハルビン,白求恩医科大学/長春,中国医科大学/瀋陽,北京協和医院/北京,宣武医院/北京,人民解放軍総医院/北京,北京医院/北京,北京医科大学第一医院/北京,北京医科大学第三医院/北京,西安医科大学/西安,第四軍医大学/西安,華西医科大学/成都,第三軍医大学/重慶,重慶医科大学/重慶,蘇州医学院二院/蘇州,金陵医院/南京,安徽医科大学/合肥,上海医科大学一院/上海,中山医科大学/広州等であった。 他方,第2年度調査が終わる頃,なお秘蔵の症例が隠れている可能性が強く疑われた。そこで第3年次に全中国の大学や病院にアンケート調査で協力を依頼した。その結果,多くの施設から好意的な反応を戴き,一部の症例は平成4年度の本単年度課題の下で最後の追加調査の対象とし,全ての症例を俎上に上げることが可能となったものである。その施設は上海第二医大/上海,廣西医学院/南寧,北京友誼医院/北京,北京軍区総医院/北京などであった。 かくして全中国の脱髄性脳疾患が疑われる全ての剖検例を俎上にあげることができた。現地における肉眼組織ならびに顕微鏡標本の観察,データーの複製に加え,標本の一部は一時借用の形で研究代表者のもとで標本作製や新しい検討が順調に進行した。 かくして平成4年11月から12月にかけて,中国において最も本研究の遂行に尽力された研究分担者ならびに協力者9名を研究代表者のもとに2週間招聘し,日中合同の総合的比較検討会を開催し,併せて米国並びに日本における脱髄性脳疾患剖検例と比較検討した。検討対象となった剖検例はおよそ100例。検討の結果それらのうち,急性播種性脳脊髄炎3例の他,確実な脱髄性脳疾患剖検例が45例見出された。これら症例の男女比や発症時年齢は米国や日本の症例とほぼ等しく,1:2並びに35才。臨床経過は日本の16年に近似する12年であった。病変の分布をみると,視神経と脊髄に病変を示すOS型は米国例の10%,日本例の46%に対し,中国例は40%であった。他方,大脳,神経,脊髄のいずれにも変性を示すOCS型は米国の67%,日本の40%に対し,中国例は49%を示した。しかも全脱髄症例45例中の14例もが同心円硬化症(Balo)病であり,OCSタイプの実に31%はBalo病によって占められていた。欧米や本邦においては殆ど認められないこのBalo病が,極めて多数中国に発症している特異性が確実となった。さらにこのBalo病14中の11例までが臨床的に性炎と診断される発症を示し,Balo病の中には臨床的に軽快する例もあった。さらに同一性内に欧米にみる多発性の硬化病変と同心円病巣が共存している例が幾例も認められた。これに加え,脳病巣中アストロサイトが特異な反応形態を示していること等も認めた。これらの知見は早急に最終的に結論づけて世界に報告し,今後の研究への新たな出発点を提示したい。
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