研究分担者 |
WIENER Franc カロリンスカ研究所, 腫瘍生物部, 教授
松島 綱治 金沢大学, がん研究所, 教授 (50222427)
村上 清史 金沢大学, がん研究所, 教授 (90019878)
早川 純一郎 金沢大学, 医学部, 教授 (50110622)
FRANCIS Wien カロリンスカ研究所, 腫瘍生物部, 教授
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配分額 *注記 |
11,700千円 (直接経費: 11,700千円)
1994年度: 2,300千円 (直接経費: 2,300千円)
1993年度: 4,700千円 (直接経費: 4,700千円)
1992年度: 4,700千円 (直接経費: 4,700千円)
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研究概要 |
マウスの形質細胞腫は、鉱物油、プリスタンあるいは合成樹脂小片などにより誘発され、免疫グロブリン遺伝子との複合体形成によるc-myc遺伝子の発現異常が例外なく認められる。しかも、このc-myc遺伝子発現は、極めて特異的な2種類の染色体転座によってそれぞれ引き起こされることを、私共は明らかにしてきた。すなわち、t(12;15)あるいはt(6;15)転座であり、この転座は誘発因子の差によらず常に一定であり、また同一形質細胞腫において両転座が共存することはない。今回の国際共同研究の特色は、SCIDマウス(C.B-17scid/scid)とマーカー染色体を有するBALB/c6.15マウス(第6-第15染色体間Robertsonian転座)との組み合わせにより、形質細胞腫を誘発させる実験系にある。 当初懸念されたことは、SCIDマウスで、果して形質細胞腫誘発が可能か否かということであった。事実、多くの実験は、SCIDマウスそれ自体での形質細胞腫誘発には成功していない。今回、私共は、ヒツジ赤血球免疫あるいは正常BALB/c6.15マウスの脾臓および骨髄細胞をSCIDマウスに移入(静注)することにより、形質細胞腫を誘発し得ることを見い出した。発症率は約20%。これは通常のBALB/cマウスのそれにくらべ決して高い値ではないが、充分に実験系として有効に利用し得る発症率である。 初年度(平成4年度)において、マーカー染色体の解析から得られた新しい知見について特記しておく必要がある。 ヒツジ赤血球免疫BALB/c6.15細胞再構成SCIDマウス19匹について得られた5例の形質細胞腫では、3例はdonorBALB/c6.15タイプであったが、残りの2例はSCID起源であった。SCIDマウスでは、V-(D)--J遺伝子再構成機能の障害により、B細胞ではpre-B以前の段階でその分化は停止する。従って、上記の知見は、形質細胞腫発症の標的細胞のひとつはpre-B以前の分化段階に属する細胞であり、染色体転座が恐らくこの時期に起こるであろう可能性を示唆した。 平成4年度において得られた2例の形質細胞腫(ABPC-SCID-IM-B,ABPC-SCID-IM-D)は、その染色体構成からrecipientであるSCIDマウス起源と推定されたが、両形質細胞腫は何れもt(6;15)転座型であった。すなわち、t(6;
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15)転座型形質細胞腫の標的細胞は、ひとつにはpro〜pre-B細胞である可能性が示された。さらに、上記両形質細胞腫は、“b"アロタイプ(SCIDマウスの免疫グロブリン遺伝子型)をもつ免疫グロブリンを産生しておらず、いわゆる“leaky"SCIDに発症した可能性も否定された。ところで、IM-B,IM-Dは、いずれもIgA産生形質細胞腫であり、そのアロタイプは“a"であった。SCIDマウスは、そのIgh遺伝子領域がC57BL/kaマウス由来の“b"アロタイプ型である以外、すべてBALB/c遺伝子型をもつ。また、本実験に用いられた、マーカー染色体をもつBALB/c6.15は、AKR6.15マウスをBALB/cマウスに戻し交配して得られたマウスであり、いくつかのAKRマーカーを残している。そこで、平成5年度においては、SSLP(Simple Sequence Repeat Length Polymorphism)解析により、IM-B,IM-DとdonorBALB/c6.15起源をもつ形質細胞腫ABPC-SCID-IM-A,IM-C,IM-Eとを比較した。 (1)D12Mit4は、第12染色体に存在し、中心体より27cMの位置にある。IM-A,C,EがいずれもAKRタイプであったのに対し、IM-B,IM-Dは、ともにB6タイプ(BALB/cタイプと同じ)であった。(2)ところが、第12染色体の中心体より50cMに位置するD12Mit7では、IM-A,IM-C,IM-E,IM-B,IM-DすべてBALB/cタイプのSSLPパターンを示した。(3)65cMに位置するIgh-C遺伝子は、得られた5例の形質細胞腫すべてについて“a"アロタイプ(BALB/c型)であった。D12Mit7は、SCIDマウスではB6タイプである。以上の知見より、SCIDマウスに発症した形質細胞腫ABPC-SCID-IM-B,IM-Dでは、第12染色体の27より50cMの間で遺伝子組み換えが起こり、結果として“a"アロタイプをもつIgA産生細胞となったものと考えられた。 形質細胞腫について見られる2つのタイプの染色体転座のうち、プリスタン単独では、t(12;15)転座>90%、そしてt(6;15)転座〜5%である。ところが、Abelson白血病ウイルス(A-MuLV)とプリスタン併用による誘発系では、t(6;15)転座型形質細胞腫の発症頻度は〜40%に増加した。A-MuLV感受性細胞はpro〜pre-B細胞である。この知見より、私共は、2つの異なった染色体転座型形質細胞腫は、それぞれ異なった分化段階にあるB細胞を標的細胞として発症するという仮説を提唱した。平成6年度(最終年度)においては、BALB/c6.15マウス脾臓より細胞表面分化抗原を指標として未成熟〜成熟B細胞を分離、SCIDマウスに移入後、形質細胞腫を誘発した。これまで、プリスタン単独により4/40例、そしてA-MuLV+プリスタンにより6/80例の形質細胞腫が誘発された。染色体解析の結果、すべての形質細胞腫はBALB/c6.15マウス細胞起源であり、しかも第12-第15転座型t(12;Rb(6.del15))であった。 (結論)t(6;15)転座型形質細胞腫の標的細胞はpro〜pre-B、そしてt(12;15)転座型形質細胞腫の標的細胞は、未成熟〜成熟B細胞と推定される。しかしながら、実験結果は間接的であり、今後、より直接的な実験による証明が必要である。 隠す
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