タンガニイカ湖・琵琶湖両生態系の多様性、弾力性と環境変動

• 研究課題/領域番号: 04044088
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 共同研究
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 川那部 浩哉 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (60025286)
• 研究分担者: KIMBADI Sona ザイール国, 淡水生物研究センターウビラ研究所, 研究員 ; TSIBANGU Kal ザイール国, 淡水生物研究センターウビラ研究所, 研究副主任 ; 成田 哲也 京都大学, 生態学研究センター, 助手 (40025440) ; 幸田 正典 大阪市立大学, 理学部, 講師 (70192052) ; 竹門 康弘 大阪府立大学, 総合科学部, 講師 (50222104) ; 谷田 一三 大阪府立大学, 総合科学部, 助教授 (20167505) ; 遊磨 正秀 京都大学, 生態学研究センター, 助教授 (80240828) ; TSHIBANGU Kalala k. C.R.H./Uvira, Zaire ; NSHOMBO Mude ザイール国, ウビラ研究所, 研究員 ; MBOKO Sima K ザイール国, ウビラ研究所, 研究員 ; MULIMBWA Nsi ザイール国, ウビラ研究所, 研究員 ; 中西 正己 京都大学, 生態学研究センター, 助教授 (60025434) ; 木下 泉 京都大学, 農学部, 助手 (60225000) ; MULIMBWA N′s ウビラ研究所, 研究員 ; MBOKO S Keit ウビラ研究所, 研究員 ; MSHOMBO mude ウビラ研究所, 研究副主任 ; GASHAGAZA M ウビラ研究所, 研究主任 ; 和田 英太郎 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (40013578) ; 白木原 国雄 長崎大学, 理学部, 助教授 (90196618)
• 研究期間 (年度): 1992 – 1994
• 研究課題ステータス: 完了 (1994年度)
• 配分額: 24,600千円 (直接経費: 24,600千円); 1994年度: 5,800千円 (直接経費: 5,800千円); 1993年度: 10,000千円 (直接経費: 10,000千円); 1992年度: 8,800千円 (直接経費: 8,800千円)
• キーワード: タンガニイカ湖 / 多様性 / 共存機構 / 種間なわばり / 社会構造 / 摂餌行動 / 種内変異 / カワスズメ科魚類 / 生物群集 / 固有種 / 古い湖 / 安定性 / 多種共存機構 / 琵琶湖 / 魚類群集 / 種内・種間関係

研究概要

平成6年度は、平成6年9月下旬から平成7年1月末の間に、タンガニイカ湖南端のザンビア国ムプルングに日本人研究者3名と、ザイール国淡水生物研究センター・ウビラ研究所からザイール人研究員1名を派遣した。
タンガニイカ湖の湖岸は岩石湖岸と砂浜湖岸が交互に出現する。岩石湖岸の岩石の表面には藻類が付着する。岩石性の沿岸にはその付着藻類を餌する多種の藻類食魚類が生息し、藻類の付着した岩や石の表面をなわばりとして占めている。なぜ同じような場所に藻類食の同属の魚種が同所的に共存するのかは、タンガニイカ湖の生物の多様性を維持している機構を解明する重要な手掛かりになる。沿岸域で藻類食魚のなわばりを潜水観察により観察し、同属種の共存を実態を明らかにしようとした。
Petrochromis属の1種P.polyodonは雌雄ともなわばりを持ち、同種の他個体は当然のこと、同属他種の個体もなわばりに入れない種間なわばりを持つ。同種の雄同志は隣り合ってなわばりを作らず、雄と雄のなわばりの間には緩衝帯があり、そこには同種の雌か同属他種の個体がなわばりを作っている。なわばりを持つ雄を実験的に除去すると、隣接の同種の雄がなわばりを拡げたり、同種の雄が新しく移入するが、同属他種の雄が空いたなわばりに移入したり、なわばりを拡張したりすることはない。同属の種の共存は、小地区を分割して利用することにより、共存を可能にしていることが推測できる。しかし、これは異質の区域を分割しているのか、同質の区域を分割利用してるのかは不明である。微地区の環境の測定を含め今後の課題である。
一方、異属の藻類食魚種の個体はPetrochromis属のなわばりに侵入し、藻類を摂餌することができる。その理由はまだよく解からないが、Petrochromis属が利用しない藻類を利用するためにPetrochromis属の個体により許容されているという仮設で、Telmatochromis属、Simochromis属の種についても水中で摂餌行動を観察し、標本を採集した。標本の食性、口器形態および行動観察を異属の種間で比較し、藻類食魚の共存の機構を明らかにしていく。
小地区をなわばりとする藻類食魚は移動距離が小さく、一つの岩礁湖岸内で生活環を完結させる。したがって、岩石湖岸の間に存在する砂浜湖岸はそれを越えて隣の岩石湖岸に移動する可能性の少ない魚種にとっては大きな隔離障壁になる。そのため岩石湖岸間で同種の個体群間で体色や外部形態に地域差がある。タンガニイカ湖の生物の多様性を明らかにするうえで重要な視点である種内の地理的変異を解明するための標本を採集し現在分析中である。
底生動物のヌマエビ類は多くの底生動物食魚の主要な餌である。船による曳網、湖底トラップ、潜水による採集によって、これまでタンガニイカ湖で知られているヌマエビ13種のうち6種を採集した。タンガニイカ湖には、北半球の湖では普通に見られる甲殻類の端脚類や等脚類がいない。ヌマエビのCaridella属、Atyella属は端脚類や等脚類が占めるような石の下や間隙に生息する。ヌマエビは異質の生息場所を分割利用することにより、多様性を維持しているようである。
食性の如何に係わらず同種、他種個体からなわばりを強固に防御する藻類食魚のNeolamprologus mooreiのなわばり内で、ヌマエビの1種Limnocaridina latipesは多く採集された。水中野外実験によると魚のなわばり防御による底生動物食魚種の捕食圧の減少がL.latipesの避難場所を形成している。魚種間のなわばり関係が、ヌマエビの重要な生息場所を創りだしている。
琵琶湖の岩石沿岸部では、石表面に糸状藻類が繁茂し、それを有効に利用するハゼ科の外来魚種のヌマチチブが増加し、在来のハゼ科魚種ヨシノボリ、イサザが少ない。ヌマチチブは富栄養化という環境変動によりできた新しいニッチを利用することにより、琵琶湖に侵入定着し、繁栄している。

研究成果

• [文献書誌] Kawanabe,H.,Gashagaza,M.M.and Hori,M.: "A conservation issue of biodiversity of Lake Tanganyika,with special reference to inshore-fishes." Verh.Intern.Verein.Limnol.,. 25. 2182 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Nakai,K.,Kawanabe,H.and Gashagaza,M.M.: "Ecological studies on the littoral cichlid commuynities of Lake Tanganyika:the coexistence of many endemic species." Arch.Hydrobiol.,Ergebnisse der Limnologie,. 44. 375-391 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Kohda,M.: "Individual specialized foraging repertories in the piscivorous cichlid fish Lepidiolamprologus profundicola." Anim.Behav.,. 48. 1123-1131 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Kohda,M.: "Does male-male attack in the herbivorous cichlid,Petrochromis polyodon,facilitate the coexistence of herbivorous congener?" Ecol.Freshwat.Fish.(in press).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Kohda,M.and Mboko,S.K.: "Territorial attacks against larger hetero-specific intruders in cichlid fishes in Lake Tanganyika." African Study Monogr.(in press).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Kohda,M.and Tanida,K.: "Overlapping territory of the benthophagous cichlid fish,Lobochilotes labiatus,in Lake Tanganyika." Env.Biol.Fish.(in press).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Kohda,M.,Yanagisawa,Y.,Sato,T.,Nakaya,K.,Niimura,Y.,Matsumoto,K.and Ochi,H.: "Geographical colour variation of cichlid fishes at the southern end of Lake Tanganyika." Env.Biol.Fish.(in press).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 竹門康弘: "国際学術研究・共同研究における研究協力の重要性--タンガニイカ湖における国際協同研究の成果と問題点を踏まえて" 陸水学雑誌. 55. 70-71 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Takamon,Y.: "What others are doing:Japanese programme." Lake Tanganyika Research Newsletter(FINNIDA/FAO). 10. 17 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Yuma,M.: "Food habits and foraging behaviour of benthivorous cichlid fishes in Lake" Env.Biol.Fish.39. 173-182 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Kawanabe, H., Gashagaza, M.M.and Hori, M.: "A conservation issue of biodiversity of Lake Tanganyika, with special reference to inshore-fishes." Verh.Intern.Verein.Limnol.25. 2182- (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Nakai, K., Kawanabe, H.and Gashagaza, M.M.: "Ecological studies on the littoral cichlid communities of Lake Tanganyika : the coexistence of many endemic species." Arch.Hydrobiol., Ergebnisse der Limnologie.44. 375-391 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Kohda, M.: "Individual specialized foraging repertories in the piscivorous cichlid fish, Lepidiolamprologus profundicola." Anim.Behav.48. 1123-1131 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Kohda, M.: "Does male-male attack in the herbivorous cichlid, Petrochromis polyodon, facilitate the coexistence of herbivorous congener?" Ecol.Freshwat.Fish.(in press).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Kohda, M.and Mboko, S.K.: "Territorial attacks against larger heterospecific intruders in cichlid fishes in Lake Tanganyika." African Study Monogr.(in press).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Kohda, M.and Tanida, K.: "Overlapping territory of the benthophagous cichlid fish, Lobochilotes labiatus, in Lake Tanganyika." Env.Biol.Fish.(in press).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Kohda, M., Yanagisawa, Y., Sato, T., Nakaya, K., Niimura, Y., Matsumoto, K.and Ochi, H.: "Geographical color variation of cichlid fishes at the southern end of Lake Tanganyika." Env.Biol.Fish. (in press).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Takemon, Y.: "Importance of genuine cooperation and education in overseas research projects and international cooperative research projects : An experience of a research project in Lake Tanganyika. (in Japanese)" Jpn.J.Limnol.55. 70-71 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Takamon, Y.: "What others are doing : Japanese program." Lake Tanganyika Research Newsletter (FINNIDA/FAO). 10. 17- (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Yuma, M.: "Food habits and foraging behavior of benthivorous cichlid" Env.Biol.Fish.39. 173-182 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Holi,M.,Gashugaza,M.&Kawanabw,H.: "Littoral fish communities in Lake Tanganyika." Conservation Biology. 7. 657-666 (1993)
• [文献書誌] Yuma,M.: "Food habits and foraging behaviour of benthivorous cichlid fishes." Env.Biol.Fish. (1994)
• [文献書誌] Mboko,S.: "Social behaviour and colour morphs in Tanganyikan cichlid fishes." J.Ethol. (in press). (1994)
• [文献書誌] 川那部浩哉・堀道雄編: "タンガニイカ湖の魚たち" 平凡社, 286 (1993)
• [文献書誌] 川那部浩哉・遊磨正秀編: "生態学からみた安定社会 多様性の維持と促進-タンガニイカ湖の魚類群集から-" (財)京都府ゼミナールハウス, 277 (1993)
• [文献書誌] KAWANABE,H.,Kwetuenda,M.M. & Gashagaza,M.M.: "Ecological and Iimnological Studies of Lake Tanganyika and its adjacent regions between African and Japanese scientist." Mitt. Int.Verein.theor.angew. Limnol.23. 79-83 (1992)
• [文献書誌] SHIRAKIHARA,K.,Use K.,KAMIKAWA,S. & Mambona,W.B.: "Population changes of sardines in the northern Lake Tanganyika" Afr.Stud. Monogr.
• [文献書誌] 遊磨 正秀: "タンガニイカ湖における魚類の共存様式" さまざまな共生(大串隆之編、平凡社). 53-70 (1992)
• [文献書誌] YUMA,M.: "Competition and cooperatives in Tanganyikan fishe communities" Mutualism and Community organization (Kawanabe,H.Cohen,J. & Iwasaki.,Oxfors Univ.Press). 213-227