研究分担者 |
BATTAGLIA B パドバ大学, 理学部, 教授
KAUSCH H. ハンブルグ大学, 水圏研究所, 教授
GREENWOOD J クィーンズランド大学, 理学部, 助教授
HAILSTONE T クィーンズランド大学, 理学部, 助教授
KIKKAWA J. クィーンズランド大学, 理学部, 教授
吉田 勝一 奥羽大学, 歯学部, 教授 (50083407)
岡田 光正 広島大学, 工学部, 教授 (70124336)
菊地 永祐 東北大学, 理学部, 助教授 (00004482)
立川 涼 愛媛大学, 農学部, 教授 (50036290)
KAUSCH HARTMUT INSTITUTE HYDROBIOLOGIE UND FISCHEEREIW., UNIVERSITY OF HUMBURG
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研究概要 |
河口域は,海,陸,川の接点に位置し,半閉鎖的で静穏な水界を形成するので,古くから水利と海運と埋立てのたやすさを求めて人々が集中し,都市が発達してきた。したがって物資の生産,流通,都市生活にともなう人間活動の圧力を極めて凝集した形で受けている場ということができる。一方河口域は,その地理的,水理的特性によってユニークな生態系を形成し,渡り鳥に採餌休息の場を,魚介類に産卵繁殖と稚仔魚の育成の場を提供し,後者の中には漁業の対象となる有用生物が多数ふくまれる。またこれらの生物は,岸辺の植物群落と共にアメニティー,環境浄化,景観,治水,レジャー等,はかりしれない利益を我々にもたらしている。 ところで,現在の環境問題には2つの特徴があるように思われる。一つは自然と人工の相克に関して,両者の価値を多角的かつ長期の展望に立って考究評価した上で,人間が許容できるギリギリの一線を模索し調整するという大変面倒なテーマに逢着していることである。もう一つは環境破壊の広域化のために局地的な対応は常に地球規模に立って評価せざるを得ないということである。河口域はこのような今日的課題を最も端的な形で保有している場といえる。何故ならば,すでに述ベたように河口域は人間欲望の集中する場であると同時に,地球を縦走する渡り鳥の中継地だからである。特に生活排水によってある程度汚染されている都市河口域は,渡り鳥の餌である底生動物が豊富に生活するために,より好適な中継地となりうることが明かにされている。 本研究の目的は上記の観点に立って,国内研究者と外国研究者の往来を通じて,日本,オーストラリア,ヨーロッパの都市河口域の劣化の現状とその要因を明らかにし,その修復手法を提示することにある。そしてもう一つの目的は,渡り鳥の観測を地球規模の広域的診断に役立たせるためのモニタリング体制の検討にある。 1,都市河口劣化の現状と要因 エルベ川,仙台湾,モートン湾の河口域の研究によって都市河口域の劣化要因を明かにすることができた。1)エルベ川は北海の主要汚染源の一つで,(1)重金属,とくに水銀汚染が顕著で,旧東独のずさんな管理に負う所が大きい。東西ドイツの統合,チェコの民主化といった政治形態の変化と環境問題との関係を考える上で,継続的な調査が期待される。(2)重金属汚染,有機物汚染にともなう底層の酸欠,浚渫等による地形変更はチョウザメ,サケの激減をまねき,コイやウナギは石油臭や水銀の蓄積によって市場価値を低め,漁業に深刻な打撃を与えている。(3)船舶航路の確保のための浚渫に起因する潮位の上昇は,河岸に洪水の危険をもたらし,浚渫土砂の投棄は生態系の喪失をまねく恐れがある。2)仙台湾(蒲生河口域)の場合,(1)港湾建設にともなう堤防設置による海流の変更と漂砂の移動,(2)河川流量の減少と漂砂の移動による河口閉塞,(3)潟と外界の海水交換の阻害,(4)養魚場排水,都市生活廃水の放流による富栄養化と酸欠が問題となっている。3)モートン湾は,沿岸の50%を蔽う堤防と運河建設によって,マングローブ帯は20%,アジモ帯はそれ以上に減少し,生息する魚種にも大きな変動が見られる。政府は地域計画と管理方針を設定し,環境改善と保護にのり出すことになった。 2,渡り鳥による地球環境診断 このテーマについては,1)劣化した干潟の修復手法,2)渡り鳥の観測ネットワークのあり方について研究を行った。1)に関しては水門の設置とその開度による潟と外界との海水交換量の最適制御および底生動物のエネルギー源である養魚場排水の最適供給量に関して多くの知見を得た。2)地球規模での指標種としては,オオソリハシシギとキアシシギの外に,強い定着性と特有の採餌パターンをもつハマシギ(Calidris alpina)が有用であることが判明した。アジア,太平洋地域を渡るシギ,チドリ類の観測組織としては,マレーシアクアラルンプルにあるアジア湿地計画本部が中心的機能を果たすことになる。オーストラリアではクインズランド鳥学会主導でアースウオッチのボランティアを動員して大規模な標識放鳥を行ないつつあり,またシンガポールに近く完成するスンゲイ・ブローの観測施設でもボランティアによる組織的な観測が行われる予定である。
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