研究分担者 |
SNOWDON A.T. マンチェスター大学, 歯学部, 研究員
ROOD J.P. マンチェスター大学, 歯学部, 教授
古屋 英毅 日本歯科大学, 歯学部, 教授 (30060429)
A.T.SNOWDON マンチェスター大学, 歯学部, 研究員
J.P.ROOD マンチェスター大学, 歯学部, 教授
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研究概要 |
近年では極めて覚醒の速やかな全身麻酔薬が使用されるようになり,覚醒期に急速に発現する術後疼痛の対策に苦慮することも少なくない。全身麻酔終了直後では覚醒状態も完全ではなく,手術部位が口腔内では経口鎮痛薬の適応は困難であるため,注射用鎮痛薬が一般的に用いられている。しかしながら,現在用いられている注射用鎮痛薬の多くは強力な鎮痛作用を有する反面,呼吸制御や意識レベルを低下させる作用があるため,全身麻酔の覚醒期に使用する注射用鎮痛薬として満足できるものはない。また,これらのことは静脈内鎮静法併用・局所麻酔下で手術を施行した術後についても同様である。このような理由から,諸外国では意識レベルを低下させない注射用鎮痛薬としてketorolacが近年広く術後疼痛管理に使用されており,特に外来患者の小手術などの症例が多い口腔外科領域での有用性について検討されている。 そこで本研究では,平成4年度から国内で一般外科手術の術後疼痛や癌性疼痛に対して臨床使用が開始されたketorolacと同様の作用機序を有する非ステロイド性の静注用鎮痛薬であるフルルビプロフェン アキセチルについて,口腔外科手術の術後疼痛管理における有用性を検討した。また,マンチェスター大学で行ったketorolacの術後疼痛に対する臨床成績と比較した。その結果,抜歯手術症例と顎移動手術症例において自制不可能な術後疼痛が発現した時点でフルルビプロフェン アキセチル50mgを静脈内投与しvisual analogue scaleより計測したペインスコアーの経時的な解析から,薬剤投与後10分から20分,平均11分で効果が発現し,両症例間に差はみられなかった。また,各々20名ずつを対象者とした両症例の全対象者40名において投与後10分から70分,平均35.5分で術後疼痛は消失した。さらに術後疼痛の程度による本薬剤の効果の差異を検討するために,薬剤投与前のペインスコアーが1から50までの疼痛が軽度な対象者群と51から100までの疼痛が強度な対象者群に分けて効果を比較すると,両症例とも効果発現時間には両群間に差はみられなかったが,その後の疼痛緩和と疼痛消失に要した時間において薬剤投与前の疼痛が軽度な群の方が有意に短い値を示した。なお,抜歯手術は静脈内鎮静法併用・局所麻酔下で,顎移動手術は全身麻酔下で手術を施行したが,いずれの症例でも本薬剤に起因する術後の直接的副作用や覚醒遅延などの中枢作用は1例も認められなかった。以上の結果から,抜歯手術症例と顎移動手術症例の術後疼痛に対してフルルビプロフェン アキセチルは良好な鎮痛効果を発揮し有用性の高い薬剤であるという結論を得た。しかしながら,術後疼痛の程度が軽度な症例ほど迅速な疼痛の緩和と消失が認められたことや,ketorolac30mg筋肉内投与後の最大鎮痛効果は投与後2時間から3時間後に得られたというマンチェスター大学の臨床成績から,本薬剤のような注射用鎮痛薬を用いる場合には術後早期に,あるいは術中から投与する方がより効果であろうと推察され,今後の研究課題として投与時期の検討が必要であると考えられた。 加えて本研究では,口腔外科外来小手術において患者の術中鎮静に頻用されているベンゾジアゼピン系薬物のミダゾラムとベンゾジアゼピン系薬物の拮抗薬であるフルマゼニルの薬理作用について体性感覚誘発電位とアブミ骨筋反射を指標として検討した。その結果,ラットにおいてミダゾラムを投与すると体性感覚誘発電位の振幅は著しく抑制されたが,フルマゼニルを続けて投与すると振幅は回復し,ミダゾラムに対するフルマゼニルの拮抗作用が体性感覚誘発電位においても確認された。また,脳幹を経由する反射経路を有するアブミ骨筋反射についても,ヒトにおいてミダゾラム投与後に抑制されたアブミ骨筋反射の振幅がフルマゼニルの投与後に回復することが確認された。以上の結果から,ミダゾラムによる中枢神経系の抑制に対してフルマゼニルはその抑制を解除し,術中鎮静にベンゾジアゼピンを使用した場合の過度な中枢神経系の抑制や覚醒遅延に対して有効な拮抗作用を示すと考えられた。
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