研究概要 |
2,3,7,8-四塩化ダイベンゾ-p-ダイオキシン(TCDD)の標準サンプルおよび ^3Hラベル標品を購入し,チトクロームP450による代謝実験を行った。チトクロームP450の供給源としてはワクシニアウイルス法により遺伝子工学的に合成された12分子種および正常人の肝ミクロゾーム画分を利用した。ヒトHepG2細胞内でヒトP450を発現後,細胞を回収し,超音波処理してlysateを得た。ここに ^3HラベルのTCDDを加えてインキュベーションし,酢酸エチル抽出物をHPLCにて分析した。基質およびその分解物以外には顕著なピークは認められず,TCDDは合成ヒトP450により代謝されなかった。ヒト肝ミクロゾームおよびラット肝ミクロゾームとインキュベーションした場合も同様の結果が得られ,TCDDはヒトP450によりほとんど代謝されないことが明らかとなった。しかし,不安定な中間代謝物が形成された可能性が残っているため,クロモゾームDNAに対するアダクト形成能についても調ベた。この方法はHep G2細胞内で発現されたP450が細胞内でTCDDを代謝活性化し,その中間体が同じ細胞内のクロモゾームDNAに結合する程度をみるものであり,既存のアダクト形成能測定法の内で最もすぐれた方法であり,極めて検出感度が高いことが特徴である。この測定を試みたところ,クロモゾームDNAへの ^HH-TCDDの結合はいずれのP450分子種においても極めて低く, ^3H-ベンツピレンや ^3H-アフラトキシンB1を用いた時のバックグラウンド程度であった。以上の結果から,初期の予想に反してTCDDはP450により代謝されないものと判断された。TCDDの毒性は別の発現機構によるものと考えられる。
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