研究概要 |
Raf-1は種々の増殖刺激に応答して活性化され、細胞の増殖制御に基本的な機能を担っていると考えられる。これのショウジョウバエ相同遺伝子D-rafの欠損した突然変異体の表現型から、その細胞の増殖と分化とにおける多機能性を明かにしてきた。更に、D-rafシグナル伝達経路を直接個体レべルで解明するために主に遺伝学的手法による解析を行なった。まず、D-rafの下流因子が構成的に活性化されるような突然変異はD-raf突然変異を優性に抑圧すると予想した。そして、D-raf突然変異(劣性致死)をEMS処理してこれを生存可能にする突然変異の検索を行なった。これまでに15系統を分離し、その遺伝的マッピングから3遺伝子座(Dsor1,Dsor2,Dsor3)をD-rafの下流因子の候補遺伝子として同定した。 この内Dsor1の優性活性型突然変異は、細胞増殖、胚末端部の細胞の分化決定や複眼形成などD-raf突然変異体で見られる異常の全てを有意に抑圧することと、反対に欠損型変異ではD-raf突然変異と類似の表現型を示すことから、これをD-rafの下流因子と結論した。新たにDsor1遺伝子座にP因子の挿入した突然変異体を誘発・分離し、P因子プローブを用いて遺伝子とcDNAをクローン化した。そして、それらの塩基配振列から、Dsor1がMAPキナーゼキナーゼ(MAPKK)に相同なタンパク質をコードすることを明かにした、進化上強く保存されたMAPキナーゼを中心としたキナーゼカスケードが高等動物ではRafによって制御されていることをin vivoで明かにした。 他のシグナル伝達に関わる突然変異との遺伝的相互作用の解析から、D-raf→Dsor1が、sevenless,torso,DER(EGF受容体相同)など複数の受容体Tyrキナーゼに共通の下流因子として機能することを明かにした。
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