研究概要 |
肺癌の発生・悪性化機序の解明には、関与するがん遺伝子とがん抑制遺伝子を同定することが必須である。高頻度にみられる3p,13q,17p欠失のうち、13q欠失はRb遺伝子を標的とするが、我々は17p欠失の標的がん抑制遺伝子が、p53遺伝子であることを見い出し、更にその不活化機構について詳細に検討して来た。本研究の結果、p53変異は非小細胞癌の約50%に検出され、既知のいずれの遺伝子異常よりも高頻度であることが明らかとなり、肺癌の成因としての重要性が示唆された。又、p53変異をもつ肺癌細胞株への遺伝子導入によって、正常p53の強い肺癌増殖抑制能と、変異p53における抑制能の不活化が示された。更に、p53変異の解析結果を肺癌のリスクファクターの同定等の分子疫学的アプローチにも応用できることを示した。 さて、3p欠失は小細胞癌の100%,非小細胞癌の60%以上にものぼり、極めて重要な未知のがん抑制遺伝子の存在が示唆されて来たが、単離への手がかりは極めて乏しかった。そこで、我々は詳細なdeletion mappingを行い,3p25,3p21.3,3p14-cenの三つの共通欠失領域を同定した。更に、最も高頻度に異常に異常のみられる3p21.3に着目し、解析を進めsubmicroscopicなhomozygous deletionを見い出した。肺癌の成因の解明に必須の3p上のがん抑制遺伝子の単離に向け実験を行なっている。 がん遺伝子については、c-kit遺伝子が小細胞癌に特異的に発現しており、そのリガンドであるstem cell factorがc-kit陽性肺小細胞癌のchemotaxisを誘起し得ることを見い出した。c-kitを標的とした新しい治療法の開発の可能性を追求したい。 又、L-myc遺伝子に関しては、L-myc,rlf両遺伝子と我々が新らたに単離したjal領域間に複雑な再構成を伴う遺伝子増幅が存在し、その様式とrlf-L-myc融合mRNAの発現とが関連していることを明らかにした。
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