研究概要 |
本研究では,火山噴出物およびマントル物質中の揮発元素についてその化学・同位体組成を比較,検討し,それらが経てきた環境や脱ガス機構などについての推定を行なうことを目的とした。 試料としては,雲仙普賢岳から1991年6月に噴出した噴石および1792年に噴出した新焼溶岩を用いて,それらに含まれている径2-3mm以上の相対的に大きな斜長石,普通角閃石,黒雲母などの斑晶および石基部分をハンドピッキングで分離し,それぞれの部分における希ガスの存在度,同位体比などを,四重極刑質量分析計で測定した。これらの試料に対して得られた結果は,次の通りである。 1)1991年の噴出物中の斜長石の ^<40>Ar/ ^<36>Ar比は330〜340であるのに対し,普通角閃石と黒雲母の ^<40>Ar/ ^<36>Ar比は300〜310程度であり,前者と後者はAr同位体比が異なった環境で生成されたことを示唆する。 2)1792年噴出の新焼溶岩では,斜長石の ^<40>Ar/ ^<36>Ar比が約350程度であるのに対し,普通角閃石のそれは,実験誤差内で大気の値(295.5)と区別できない。 3)1991年の噴出物中の各斑晶中の希ガスの存在度のパターンを比べると,黒雲母は他の斑晶に比べて重い希ガスに対して相対的にNeが少な目である。このことは,黒雲母が二次的な加熱に対して軽い希ガスを他の鉱物よりも逃し易く,これらの斑晶に二次的な加熱が加えられたという他からの情報と矛盾しない。 4)上記の結果は,斜長石が普通角閃石や黒雲母より早期にマグマ中に晶出し始めることを考慮すると,斜長石が他の斑晶よりも相対的に深部で結晶化したことを示唆する。また普通角閃石や黒雲母はいずれも含水鉱物であり,それらの ^<40>Ar/ ^<36>Ar比が大気に近いことを考え合わせると,これらが晶出した雲仙普賢岳付近の環境は相対的に浅い部分で地下水が関与している可能性が示唆される。
|