研究概要 |
磁気的ヒステリシスに代表される巨視的な強磁性的振舞を顕わに示す磁性高分子は全て室温においても特異なESRスペクトルを示す。磁気特性を微視的立場から解明するには高感度高分解能のESR及びENDOR法を採用した。まず磁性高分子の代表例の一つとして、ピレンヤベンゼン環を骨格としトリアリールメチルラジカル基をスピンサイトにもつ縮合多核多環芳香族ポリマー(A)を採用した。ESR測定では,線幅の広い吸収の主成分はガウス型線形を示し,線幅の狭い成分はスピン濃度と繰返し数の増大とともにローレンツ型線形の寄与の増大を示した。このことは、分子間スピン交換相互作用の増加による寄与と解釈できる。ESRスペクトルの特異な温度変化(3K〜300℃:温度降下に伴う共鳴磁場の低磁場シフト)はランダム磁性体に固有の挙動に酷似しており強磁性の前段階ともいえる短距離秩序状態の一つであるスピングラス状態の形成を強く示唆する。低磁場シフトは、スピン濃度の増加に対しても観測された(P-HBA系)。そこで比較的短稜離のスピン秩序形成を仮定した高スピン集合系のスピン双極子相互作用を仮定したアプローチによって、線形及びシフトの解析を検討したが大きなシフト量を再現できなかった。ピレンノBA系の線幅の狭いESR吸収線について、水素核の無秩序配向状態の固体ENDOR測定を行いスペクトルシミュレーションを行った結果,主成分は4つ以上の繰返し数から成るオリゴマー(S=1/2)であると推定できた。ピレンノBA系についてはさらに有機溶媒に可容な成分について,液相の水素核ENDOR測定を行った。シミュレーションの結果,77個の水素核の組(超徴細結合定数=0.14〜1.4MHz)で再現でき,6個の繰返し数をもつオリゴマーまたは低分子オリゴマーの混合物であることがわかった。固体では,オリゴマーの複数スピンサイトの大部分は,反強磁性的に結合しS=1/2を与える。
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