研究概要 |
1.ロシア・中国・米国の研究者を招き、国際シンポジウム「北方ユーラシアにおける細石刃石器群の起源と拡散」を開催した。 2.シベリア旧石器文化の第6期、マリタ文化の段階での居住圏の急速な拡大は、北海道ばかりでなく、アメリカ大陸にまで及んでいたと考えるにふさわしい状況がある。具体的な証拠には乏しいものの、石刃技法と尖頭器を作り出すに必要な技術伝統こそが、アメリカでのその後の細石刃伝統やクローヴィス伝統を生み出す母胎であり、ライオネル・ジャクソンの「無氷回廊」の成立時期(25,000〜20,000B.P.)ともよく符合する。最初に進出した「マリタ伝統」の遺跡が、その後の氷河の発達によって破壊された可能性も強いが、緊急を要する新たな研究課題である。 3.次の細石刃石器群が北方アジア的な性格を示すものであることは、いよいよはっきりしてきている。不可避的に進む石刃の小型化、石刃剥離面、すなわち作業面の正面から側端(木口)への移動にともなう楔形石核の出現、両面加工技術との結合などが契機となって、北アジアに独特な楔形細石刃核を伴う細石刃石器群が成立した。しかもそれが、世界に先がけて押圧剥離技法を成立させたことと深く関係している。この技術的相違が、文化、時代を分ける貴重なメルクマールとなる。 4.マリタ段階における「北方モンゴロイド」の成立が、細石刃の段階に至ってさらなる展開を示し、やがて分立期を迎えると推察される。 5.細石刃石器群にみられるモザイク様の地域的性格は、およそその後の新石器時代にも引き継がれる。関連して、北海道の縄文時代、続縄文時代他のみられる大陸的遺物、櫛目文土器、押型文土器、丸のみ形石斧、貝製平玉、琥珀製品、骨角製銛頭、石製ナイフ、石偶、各種の鉄器・青銅器などについて収集し、データ・ベースの作成を行った。ただし、収集は始まったばかりであり、分析結果は今後の成果刊行の中で果たす。
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