研究概要 |
欧米の環境倫理学思想をその文化的・社会的文脈に位置づけ、新たな環境倫理学を構想するのが本研究の目的であった。そこで、現在の環境理倫学において、人間中心主義的なものも人間非中心主義的なものも共通に前提している価値に「ウィルダネス」の価値がある。その価値の成立の歴史的過程を分析した。当初は西洋社会で否定的な概念だったこの概念は肯定的なものとなり、ウィルダネスを保護することが重要な価値と認識されるようになったのは、思想的にはロマン主義的な契機であり、社会的には近代的生活が漫遥してきたことに関連している。しかも、特にアメリカは文脈の役割は大きい。ウィルダネスの保護を自然保護の中心的なものにしたオルド・レオポルドの科学史・科学社会学的分析からも同様の結論が出てきた。つまり、その概念も普遍的なものとして捉えるよりも、歴史的にも地域的にも相対化が必要であり、そのような正当な位置づけの中で、新たな環境倫理学も模索できるという結論を得た。 かくして、このような歴史的研究を踏まえて、新しい環境倫理学を構想しつつある。この構想は、孤立した人間と自然の関係の在り方を論じるのではなく、社会的連関の中で捉え、人間の生活とか生業といった人間の総体の関わりとして存在しているような一つのまとまりとして考えるべき、人間と自然の関係の一つの複合体を基礎とするものである。これをSTS(Science,Technology,and Society)環境倫理学と称して、今後この内容について詳細に研究していく所存である。 上記の研究を遂行するために、研究班単独による公開拡大研究会を2回、重点領域の他班(森村欲の比較,海域世界,パラダイム,自然観,世界観の各班)との合同分科会を、さまざまな組み合せで3回開催して、研究内容に関してのつっこんだ議論を行った。
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