研究概要 |
化学反応には、ほとんど例外なく熱の発生または吸収がともなう。この熱の発生・吸収は系、すなわち溶媒の温度変化としてとらえることができる。本研究では、反応にともなう温度変化を精密に(0.01mkの精度)測定し、これを解析し、温度変化から熱発生の時間変化を抽出する方法を確立した。これは系の熱応答関数g(t)を決定することにより、反応による温度変化s(t)を測定すれば、熱発生関数h(t)が、各関数のフーリエ変換G(K),S(K),H(K)を用いてH(K)=S(K)/G(K)と表わせることから、H(K)の逆フーリエ変換として決定できることに基づいている。この方法をDeconvolution法と呼ぶ。 具体的には、(1)DMFおよびDMA有機溶媒中におけるアルミニウム(III)のクロロ錯体の生成反応、および(2)ビスビピリジンクロロニッケル(II)錯体からトリスビビリジン錯体の生成反応につい解析を行なった。アルミニウム(III)イオンの反応において、DMA中ではDMF中と異なり速い反応ど遅い反応による吸熱がみられた。DMF中ではモノおよびジクロロ錯体の生成があり、これらの生成速度は速い。DMA中では、これらに加えてトリクロロ錯体が生成し、この生成速度が遅いことが判明し、速い反応と遅い反応熱を分離して捉えることができた。さらに遅い反応に関しては、反応速度定数を決定することができた。但し、精度の面でまだ充分とはいえない。精度は長時間にわたる熱平衡温度の一定性に強く依存することが判明した。この研究で、反応熱の速度論明解析のあしがかりができ、今後、生体関連の反応、例れば、タンパク質の変性などの研究にも応用することが可能ではないかと思う。
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