界面活性剤分子はある条件下において棒状ミセル或は紐状ミセルを形成することが知られている。希薄溶液におけるこれら巨大ミセルの構造に関しては多くの報告があるが、準希薄溶液(あるいは濃厚溶液)に関する研究は非常に少ない。これまでに本研究代表者による光散乱測定の解析から、非イオン性界面活性剤濃厚溶液と鎖状高分子系との類似性が見いだされており、紐状ミセルの絡み合いが示唆されている。本研究では、これらの系に対して、ミセルの絡み合いの動的側面を微視的見地から議論する上で有用な物理量である、界面活性剤分子の自己拡散係数の測定を行なった。自己拡散を測定する手段としては、パルス磁場勾配^1Hスピンエコー(PGSE)を用いた。 測定された界面活性剤の自己拡散係数は、低濃度側では界面活性剤濃度の増加と共に減少した。減少の度合については、鎖状高分子および“living plymer"の濃厚溶液の理論値と比較し、議論した。一方高濃度側においては、自己拡散係数は濃度の増加と共に増大し、両対数プロットは傾き約2/3の直線となった。更にこの領域における拡散の活性化エネルギーは異常に大きい(〜160kj・mol^<-1>)ことがわかった。これらの結果はミセル間の界面活性剤分子の移動を考慮したモデルにより説明することができた。また、1%以下の濃度領域において、スピンエコー信号と拡散時間、磁場勾配パルスの幅との関係に対するミセルの会合数分布の影響が観測された。これはミセルの寿命が拡散の観測時間(0.1sのオーダー)より長いか同程度であることを示唆している。 以上の結果より、紐状ミセルの絡み合いの動的側面に関して、これまで得られいなかった新しい知見を得ることができた。
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