研究概要 |
物質科学グループでは,2次イオン質量分析計の周辺装置の拡充をはかり,ビームの高輝度化などによって面分析とその高精度化ゐ実現した.これによって,超高圧力(5-27GPa)高温(900-2000C)条件のもとで平衡処理した珪酸塩と鉄の試料の分析を行ない,地球核とマントルの間におけるニッケルなど27元素の分配係数を精密に求めた.また,これらの分配係数に対する圧力効果,酸素分圧の効果,硫黄の組性効果など,従来は分からなかった効果を解明しつつある.これらの結果を用いると,マントル中のモリブデン,タングステン濃度のデータから,核の中の主要軽元素は硫黄ではないらしい,という重要な結果が得られる.また,鉄-水素2成分系の状態方程式の研究では,核内の軽元素として重要な水素の固液間の分配係数が0.8という結果をえた.これは内核生長による外核対流の物質駆動について,従来の評価を見直すべきことを示す重要な結果である. 流体力学グループでは,マグマオーシャン,すなはち,金属と珪酸塩の分離を伴いつつ対流する2相系の挙動を「あぶく対流」の理論と実験によって,また,熱物質対流の流れ場,温度場,プリュームの型などを液晶をもちいた2次元可視化実験によって研究し,重力場における物質分化とそれらの基本的性質を明らかにした. シミュレイショングループでは上の2グループの成果の他,最近の核に関する研究成果を総合して,地球核の形成進化におけるエネルギー物質収支の大局的描像を導くことができた.核の初期密度成層がもつ大きな重力エネルギーを補償して対流とダイナモが生ずるための条件として,地球潮汐と核内の慣性重力振動の共鳴現象が28億年にあり,核の物質分布,熱的状態,ひいてはマントルの活動と月地球形の力学進化にも大きな異変をもたらした.また,内核の生長のダイナミックスについての詳しい研究によって観測的にチェックできる核の層構造とその構造進化モデルを創った. 総括すると,今まで単に単純な一定の構造を持つ定常的な存在としてのイメージしかなかった地球中心核について,具体的な物理的プロセスの連鎖相互作用の結果として,その生成,生長,変動,進化する動的な描像を得ることができた,といえよう.
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