研究概要 |
カルベン活性種のσ結合への挿入反応によって不斉中心を構築する反応は,不斉合成の手法としてこれまで余り研究例のない形式の反応である.本研究ではα位に不斉中心を持つ金属カルベン錯体のSn-H結合への挿入反応を題材にdigonal炭素中心をtetrahedral中心に変換する際の立体選択性を決定する要因について研究を行った結果,一定の法則性を示す1,2-不斉誘起が観測されることを見いだした.また,本研究の過程においてα,β-不飽和カルベン錯体へのエノラートの付加反応が高度に立体選択的に進行するという新しい知見を得た.この2つの結果を利用することで,直鎖上に2段階で4つの不斉中心を構築する手法を開発することができた. 反応は1当量以上のピリジンの存在下で約1当量づつのカルベン錯体とR_3SnHとをヘキサン中で加熱還流するだけで進行する.選択性はα-位の置換基の嵩高さが増すと向上する傾向が見られ,最高で93:7という選択性が見られた.また高い官能基選択性も見られ,スズ置換基,ケトン基またケトンのα-位の立体化学を損なうことなく挿入反応が進行した.またR_3SnHのかわりにR_3SnDを用いると位置特異的に重水素の導入された化合物が得られた.本反応はカルベン型活性種の挿入反応での1,2-不斉誘起の最初の例であると同時に,このような反応で高いレベルの不斉誘起が発現することを初めて示したものである. 立体選択的1,4-付加反応,メチル化,およびSn-H挿入反応を組み合わせることで2工程約90%の立体選択性で4つの不斉中心が構築可能である.Sn-C結合は立体化学を保持したままC-C結合に変換可能なことが知られており,この手法は有機合成的にも大きな可能性を有している事がわかる
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