研究概要 |
ナシ、イチゴ、カンキツ黒斑病菌はいずれも類似の低分子毒素を放出して宿主植物を認識し、寄生している。これらの構造研究と生合成過程の概略は既に解明していたが、本年度はナシ黒斑病菌のAK毒素の左側部分がフェニルアラニンより生合成される事を標識実験によりを証明した。また、毒素が宿主細胞と相互に作用する認識機構のモデルとしてAK毒素の化学的な反応性について検討した結果、貴重な知見が得られたのでこの詳細についての解明を進めている。トウモロコシごま葉枯れ病菌race3つの複合毒素の成分BZR-cotoxin I,II,III及びIVの構造がいずれも分子量が900前後の大環状デプシペプチドであることを見いだし、これら4種の立体化学を含む構造決定に成功した。これらはN-メチルアミノ酸を含む等の点で一見類似しているかに見えるが、かなり異なっており、今後、これらが相乗的に毒性を発揮する概構を研究する上で貴重な知見が得られた。これらは、天然からはごく微量しか得られず、これが今後の研究の障害となっていたので、これらの人工的な合成を検討した。その結果、4種の中で最も微量にしか得られないBZR-cotoxin IVの全合成法を確立すると共にBZR-cotoxin IIIの4つのN-メチルアミノ酸が連続する部分の合成に成功した。これによりBZR-cotoxin IVについては天然物の推定構造が正しいことが証明できると共に、菌の培養液や菌体から単離する方法よりも純度の高い結晶状の天然物を多量に得ることができた。これにより、これらの毒素が相乗的に毒性を発揮するという現象を分子レベルで解明するための糸口が得られた。
|