研究概要 |
本研究では,Fe系の多層膜の積層界面での結晶学的方位関係や原子配列のミスフィト因子などを構成層金属種を選択するなどして意図的に制御して多層膜を作製し,それらの界面構造や界面での格子歪などを,回折結晶学的手法,特にX線回折法や高分解能電子顕微鏡法で解析し,併せて測定した電気抵抗率,磁気特性などとの相関関係を調べ,所定の特性を示す金属多層膜設計のための作製因子について実験的に調べた. 本研究で得られた主な結果は以下の通りである:(1)優先配向性を示す金属多層膜の積層界面における結晶方位関係は,結晶系と格子定数から予想される結晶方位関係のシミュレーションの結果からある程度予測できることが分かった.(2)積層界面の平滑性についてはこのシュミレーションからは予測できず,作製条件ばかりでなく,各構成金属種の表面エネルギーなどが関係していることが示唆された.(3)多層膜の優先配向性と界面の平滑性から,ヒステレシスループ上に現れる磁気特性が定性的に説明できた.さらに,この研究により,装置内の製膜中でのその場電気抵抗測定は多層形成の周期計測のモニタリング法として有効であること,各構成膜の成長様式の決定と界面での整合性については,これまでの他の研究手法による結果と大変良い相関関係があることも分かった.また,X線回折と電子回折の併用による積層構造評価法,つまり膜構造を平均構造から局所構造の解析へ,また,巨視的尺度から微視的尺度まで一貫した評価法を確立するため技術開発のための基礎的知見が得られたので,今後,X線回折法による平均的な構造解析の結果,断面透過型電子顕微鏡観察の解析結果,さらに低倍率電子顕微鏡の光学変換による解析結果を総合評価して界面の凹凸構造・格子歪・膜応力についての情報を得る解析手法を確立すべく計画中である.
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