研究概要 |
本研究の目的は,金属人工格子の磁性におよぼすスピン偏極電子の影響を明らかにすることである。特に,最近注目されている金属人工格子の巨大磁気抵抗効果について,人工格子の膜面に垂直方向の電流成分に対する磁気抵効果に着目し,スピン偏極電子の役割について知見を得ることをこころみた。 そのためNi/Al_2O_3/Co,Ni/Al_2O_3/Ni等いわゆる強磁性トンネル接合を用い,各強磁性電極層の磁化間の角度とスピン偏極電子の輸送との関係を調べた。更に,この様なトンネル接合の絶縁障壁層の厚さを減少させた極限としてNi/Co接合を用い,強磁性多層膜の磁気抵抗効果に及ぼすスピン偏極電子の影響について調べた。接合試料は,2,3種のマスクを用い,各層を順次真空蒸着,積層して作成した。マスク交換に際し真空を破らず,清浄な界面を有する試料を作製するため,本科学研究費補助金により,真空中で精密に2種のマスクを移動させる移動機溝を開発,作製した(特注)。絶縁障壁層,Al_2O_3は,薄いAl蒸着層の大気中酸化により形成した。 上記の強磁性トンネル接合について,我々が既に報告した室温での磁気バルブ効果(トンネルコンダクタンスが両電極の磁化のなす角度に依存する効果)の詳細な実験を行った結果,Al_2O_3絶縁層は薄い酸化層で表面が被われたAl結晶粒で構成され,粒界にトンネル接合が形成されている考えられ,このような構造によって,温度依存性を含めたトンネル特性,室温での磁気バルブ効果観察,強磁性金属酸化層を絶縁障壁とした強磁性トンネル接合との差異等を説明出来ることが分かった。次にNi/Co接合については,室温で22%に達する巨大磁気抵抗効果が観測され,主にプレー・ホール効果に起因するものであることが判ったが,通常とは異なり,Ni,Co層間の磁気的相互作用が関与した磁区変化のため,10数Oeの小磁界で巨大変化が起こることが分かった。
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