電子移動が不可逆の場合、すなわち結合開裂、生成を伴う場合は、電子移動が吸エルゴン過程であっても全体の反応は起こりうる。その場合、電子移動過程が触媒作用を受ければ、全体の速度が加速されることになる。そのような電子移動過程に対する触媒作用は、生体内電子伝達系においても電要な役割を果たいしていると考えられる。そこで我々は種々の不可逆系電子移動反応に対する金属イオンの触媒作用について検討している。その結果、金属イオンがラジカルアニオンと複核錯体を形成する場合に、特に顕著な触媒作用があることがわかった。本年度の研究成果を以下にまとめて示す。 (1)セミキノンラジカルアニオンとMg^<2+>との二核錯体の生成 ●二核錯体の過渡吸収スペクトルの検出と生成定数の決定 ●ジヒドロニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)モデル化合物によるキノン類の還元反応に対する触媒作用 ●アントラセン類とキノン類とのDiels-Alder反応に対する触媒作用 (2)フラビンラジカルアニオンとMg^<2+>との二核錯体の生成 ●NADHモデル化合物によるフラビンの還元反応に対する触媒作用 (3)O_2^-とMg^<2+>との二核錯体の生成 ●ジヒドロフラビンによる酸素還元反応に対する触媒作用 ●フェロセン類による酸素還元反応に対する触媒作用 (4)アクリロニトリルラジカルアニオンMg^<2+>との二核錯体の生成 ●アントラセン類とアクリロニトリルとのDiels-Alder反応に対する触媒作用 この場合Mg^<2+>はシアノ基に配位するのみならず、炭素2重結合とσ-π相互作用により結合しているものと考えられる。
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