研究概要 |
イソギンチャクの一種より単離された3,9-二置換-8-オキソアデニン誘導体caissarone塩酸塩(la・HCl)は,中性水溶液中において7位プロトンを解離し,ベタイン構造をとるものと推測される。そのようなベタイン構造には核酸レベルでの特異な塩基対形成能が潜在しているように思われる。すなわち,laのヌクレオシドアナログにはオリゴあるいはポリヌクレオチド鎖に組み込まれた際の機能発現が期待できる。そこで,本研究では先ずla・HClの合成と酸解離構造の解明を行なった。 9-Methyladenineより4工程で得られるN^6,9-dimethyl-8-oxoadenine(2a)をMelでメチル化すると,主生成物として3-methyl化体la・HIを,また副生成物としてl-methyl化体を得た。la・HIをAmberlite IRA-402(Cl^-)で処理すると,標的化合物la・HClを得ることができた。またN^6-benzyl-9-methyl-8-oxoadenine(2b)を用いて,同様な経路によりN^6-benzylアナログlb・HClをも合成した。なおla,b・HClの水素化分解による2-oxoimidazolidine-4-carboxamidine誘導体の生成という興味深い反応も見い出すことができた。一方,N^6,N^6,9-trimethyladenineを順次臭素化,加水分解およびメチル化してla・HClのN^6-methyl誘導体3・HClを合成した。la・HClと3・HClとは互いによく似たUVスペクトルを与え,しかもpKa値は各々6.78および6.73とほぼ同じ値を示した。これらの結果より,la・HClは当初の推測通り,中性水溶液中でベタイン構造に解離することを明らかにすることができた。またla・HClをAmberlite IRA-402(HCO_3 ^-)で処理してベタイン構造を有すると思われる遊離塩基laを実際に単離した。
|