研究概要 |
ひずみ超格子においては,半導体の有効質量などの材料パラメータがひずみの程度で変化する。このため、ひずみ超格子を用いた半導体レーザで期待される特性を実現するには,ひずみとバンドパラメータの関係を正確にし肥握する必要がある。そこでまづバンド端有効質量のひずみ依存性について考察し,伝導帯ではKaneの一次摂動論を用いて解析式を求め,実測値と一致することを確認した。価電子帯に関してはバンド混合によって複雑なバンド構造となるため,一般には数種計算に頼らざるを得ない。しかし量子井戸の(001)面内に圧縮応力が加わった場合には,無限バリアを仮定すると解析式が導け,測定結果もバルク半導体よりかなり小さい,計算値と同程度の値になっていることがわかった。 このようにして求められた伝導帯のバンド構造,ならびに数値計算した価電子帯バンド構造を用いて,電流密度と光学利得の関係を計算した。レーザの変調帯域の上限は緩和振動周波数がその目安となり,キャリア密度に対する光学利得の微係数で与えられる微分利得の平方根に比例する。特にひずみ量子井戸において微分利得の3〜4倍の改善が見られ,約2倍の高速化が期待できる事を示したが,実験例と比較検討してみると,井戸幅の狭いレーザ構造において,光学利得の測定値が理論計算よりかなり小さくなっていることが解かり,そのためレーザの高速性に重要な微分利得も低下していることが明らかとなった。 この主な要因として,狭い量子井戸では量子井戸幅の一原子層の揺らぎに対する遷移エネルギーの変化が大きく,光学利得の低下を引き起こすと孝えられる。したがって,量子閉じ込めが本質的な領域でその特性を引き出すためには,ヘテロ界面の一原子層揺らぎも許さない制御技術の確立が重要であり,一原子層づつ正確に形成していく原子層成長(ALE)技術が欠せない。この原子層成長に関するセルフリミティング機構の検討を行い,超格子作成に必要なALE Windowを制御するために必要な基礎研究を進めた。
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