研究概要 |
本研究では,まず,知識をモジュール化し,各モジュールを知的行為主体であるエージェントと見なし,エージェント間でメタ知識の通信が行われるような多エージェント型知識システムの形式化を行った。そのために,代表的な非単調論理である自己認識論理を多エージェント系へ拡弘した。この論理に基づいて,階層や時刻をエージェントと見なして知識をモジュール化することにより,階層や時間順序を持つ構造的知識の表現に関する手法を与えた。特に,階層的知識における属性継承の表現や,時間的知識における状態継続や因果関係の表現,およびそれらと時間の流れとの関係を明らかにした。それらはエージェント間の関係をメタ知識によって表現したものである。これによる従来の知識表現手法において問題点とされていた多重拡張問題や時間射影問題を避けることが可能であることを示した。 また,タブロー法に基づく多エージェント系自己認識論理の決定手続きに導出原志を導入した新しい手続きを開発し,その完全性を示すとともに,手続きの効率改善を図った。この手続きは,推論の際に関連する知識だけを用いる方法である。さらに,計算機上への表現を行い,導出現理を用いた場合にはタブロー法を用いた場合に対して,大幅に速く処理できることを示した。 一方,不完全な情報から知識を獲得して推論を行う例として,日本語文章における省略された主語の同定と照応解析の問題を取り上げ,その意味解析モデルを与えた。そのために,各文が持つ主語や目的語などの情報を蓄積する文脈状態を想定し,文の意味を文脈状態間の関係として形式化した。このモデルでは,文の意味は各単語の意味から,また文章の意味は各文の意味から合成して得るという構成性原理に基づいている。
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