(1)量子論・古典論のそれぞれに対して、シンプレクティック法に基づくシミュレーションプログラムの開発を行なった。量子論では、この方法によって効率が良く精度の高い数値計算が可能になった。古典論でも、効率良く精度の高い計算が可能であるが、量子論と同じ精度を保証するためには時間刻みをひとケタ以上小さくとる必要があることがわかった。今後のプログラム開発・テストにおいて、次の2点が問題として残されている。古典論では、アーノルド拡散のある系に対して適用できるようにするために、複数あるシンプレクティック法のアルゴリズムの間で比較を行なうことがある。量子論では、ボーズ統計・フェルミ統計を考慮した計算を効率良く行なうために、これらの対称性を取り入れた高速フーリエ変換の専用アルゴリズムの開発を行なうことである。 (2)4次元位相空間を射影・切断によって3次元空間内に表示するプログラムを開発した。しかし、4次元位相空間の構造は予想以上に複雑であることが判明した。今後は、化学反応過程のモデルとなる具体的なハミルトニアンを用いる。古典論では、カオス領域の連がり方やそのボトルネックの幅など、特にトポロジカルな情報を引き出すための画像処理法の研究を行なうとともに、それを用いて、分子内エネルギー緩和のダイナミックスを律速する位相空間の構造を解明することを課題とする。量子論では、実験的にフェムト秒レーザーを用いて波束の位相緩和過程が研究されていることに対応して、カオスによる位相緩和過程の理論的な研究を行なう。また、実験面で位相情報の回復が重要視されていることを踏まえて、位相情報の回復を行なうアルゴリズムの開発を行なうとともに、それをカオスによる位相緩和に適用する。
|