研究概要 |
感性とは,知覚に依存し,知覚で得られた情報をより高次元な立場で取りまとめる能力である.知覚は周囲の環境を知る作用であるから,知覚に依存した感性は,個体がおかれた特殊な環境と状況に応じて発達する.この観点から,感性情報を取り扱うための推論,および感性を形成するための学習の研究を行なった. 感性情報処理では,客観的な情報だけではなく主観的な情報を扱う.コミュニケーションを成り立たせるためには,情報の送り手は客観的なメッセージを主観的な情報の組合せとして表現し,受け手は互いに関連する複数の主観的な情報から総合的な情報処理を行って,メッセージを読みとらねばならない.たとえば音楽においては,編曲理論,和音の飾り付け,バランス感覚など解釈すべき制約条件が多数あり,それらに基づいて明暗などのムードが伝わる. 以上のような多様な情報に基づいた感性を明らかにするため,互いに関連する3種類の研究を行なって,基礎的な知見を得た.(1)多様な情報への人間の対応のしかたを調べるため,イメージと言語情報を関連させて学習者にあたえ,プロトコル解析を行なった.(2)言語情報や視覚情報などの複数の形態の情報を基に行なう推論は,混成推論(heterogeneous inference)と呼ばれている.多様な情報に基づいた処理を可能にするためには,混成推論機構を実現しなければならない.その基礎研究として,グラフリダクションによる推論機構を試作した.(3)感性情報処理で取り扱う各々の情報は,主観的で刻々と変化する状況に依存するため,処理法を静的に定義できず,動的に獲得せねばならない.このような感性形成機構について,音楽の編曲を題材として実験を行なった.
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