研究概要 |
血管は常に血流の力学的影響の下にさらされている.よって血管の幾何学的な形態と血流との間には密接な関連があると考えられている.血管形態の生理学的意義をバイオメカニクスを基礎に解明することが本研究の目的である.そのために,動物(ネコ,ラット)の血管鋳型(脳,腎臓,心臓,耳)の幾何学的計測,生理的状態での血管の幾何学的計測(脳表,ヒト眼底,鶏胚)を行った.これらの測定結果と分岐流れの流体力学および最適原理を基にした解析結果との比較を行い,血管の形態を支配する力学的因子について考察した.血管鋳型を用いた血管分岐形態の計測結果は生理的状態での計測結果と良い一到を示した.血管は導管としてエネルギー的に最適(経済的)であると仮定する最適原理を基にして,分岐での2つの分枝管の血管径比(D1/D2)と分岐角比(θ1/θ2)の間の関数関係が導かれている.今回の結果は最適原理から予測される結果と一到する傾向を示した.しかしながら,測定結果は大きなばらつきを持っていること,加えてばらつきの程度が臓器によって大きく異なることが明らかになった.さらに,血管は分岐点と分岐点の間で曲がりくねっており,分岐角は分岐点のごく近傍でしか定まらないことが明らかになった(脳では血管直径Dの3倍,腎では3.3倍程度).これらの結果より,血管分岐の形態はエネルギーの最小問題として理解されるのではなく,局所的な力学的問題であると考えられる.今回,2つの分枝流れの力学的な釣合(流れの運動量の釣合)を考えることによっても血管径比と分岐角比の関係が導かれ,今回の測定結果を説明できることが分かった.さらに血管形態の力学的意義を理解する為には,血管内流速と血管径の関係を生理学的に測定することが必要である.この目的の為に顕微鏡ビデオ装置を用いた実験方法の開発を行った.
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