研究概要 |
本年度は、ラット心臓から酵素で分離した単一心筋細胞の弛緩時の基本的な力学的性質の検討と実験装置の製作を行った。 1.細胞内イオン濃度を0.5Mに上げるとミオシン繊維とアクチン繊維が溶解することが知られている。これらのタンパクの細胞形態の維持における役割を調べる目的で、Brij58で細胞膜を化学的に破壊した心筋細胞を用い、溶液のイオン強度を0.5Mに上げたところ、細胞のわずかな伸展がみられた。これは従来の報告と逆の結果である。現在、高イオン強度下でミオシンやアクチン繊維がどの程度溶解除去されているか、蛍光抗体法を用いて検討中であり、まだはっきりした結果はでていない。 2.細胞に変位を与えるための微小変位計を米国ワシントン大G.H.Pollack博士の好意によって提供してもらい、これを筆者の実験装置で使用できるように調整した。その結果、顕微鏡下で細胞に1um以下の変位を正確に与えることが可能となった。 3.分離単一心筋細胞の力学的性質の測定のためには、細胞の一方の端を張力測定装置に、他端を変位計に接続する必要がある。しかし細胞は非常に小さく(厚さ5-10μm,幅20-40um長さ100-200μm程度)、接着剤としては従来Poly-L-lysineなどが用いられているが問題も多く、筆者もこれを試みたがうまくいかなかった。そこで物理的に細胞を測定装置に固定する方法、すなわち測定装置の先端にガラス微小電極を取付け、これを細胞に刺入する方法を試みている。まだ方法は確立していないが、うまくいけばこの方法を用いて細胞の力学的性質を検討することが可能となる。
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