研究概要 |
本年度は異種遷移金属を含む配位不飽和な三核錯体の合成研究に先立って、ルテニウムの三核トリヒドリド錯体の反応性について詳細に検討し、以下に列挙する成果を得た。 (1)三核トリヒドリド錯体(Cp′RuH)_3とプロトン酸(HX)の反応で三核のモノカチオン錯体(Cp′RuH_2)_3Xが生成することを明らかにし、X線回折法を用いてその分子構造を解明した。 (2)三核トリヒドリド錯体(Cp′RuH)_3とアルキンの反応は形状選択的に進行し、μ_3-η^2-(⊥)-アルキン錯体が生成することを明らかにした。非対称アルキンの置換基の配向は一義的に決まり、より大きな置換基が選択的に3つのルテニウムで形成されるコアの真ん中に位置する。 (3)三核トリヒドリド錯体(Cp′RuH)_3と環状ジエンとの反応においては顕著なサイズ選択的基質取り込みが観察された。シクロオクタジエン、シクロヘプタジエンとは室温下およびTHF還流条件下でも全く反応せず錯体が回収されるのに対し、環サイズの小さなシクロヘキサジエン、シクロペンタジエンとは室温下で速やかに反応する。1,3-および1,4-シクロヘキサジエンとの反応ではμ_3-η^2:η^2:η^2-ベンゼン錯体が定量的な収率で得られた。一方、シクロペンタジエンとの反応ではC-C結合の切断が起こり新規な三核のメタラサイクル錯体が生成した。これまで遷移金属錯体によるシクロペンタジエンのC-C結合切断の報告は全くなく、本研究において初めて顕著な多核効果が観察されたものと考えられる。
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