研究概要 |
本年度の計画に沿って行った研究の成果は,次の三つに大別できる。 1.安定ラジカルをゲストとする包接体結晶の磁気的性質 縮合チオフェン骨格から成る一連のホスト化合物を合成・開発した。それらのうち二種のホスト化合物は,安定ラジカル4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシドをゲストとして取り込んだ包接体結晶を与えた。それぞれの固体について磁化率の温度変化を測定したところ,一方は2Kまで常磁性であったのに対し,他方は2K付近から反強磁性が出現した。 2.光照射による固体中での三重項ラジカル対の生成 結晶の中にラジカルを発生させる試みをいくつか行った。そのうち,9-フルオレノール置換チエノチオフェン誘導体の結晶粉末への光照射によりO-C結合のホモリシスにより,ラジカルが発生することが判った。光照射後の結晶のESRは,ゼロ磁場分裂による多量線を示し,結晶中に三重項ラジカル対が存在することが明らかとなった。X線結晶解析により,O-H基が脱離することにより隣接分子どうしが接近して2分子の対を形成し得ることが判った。この接近により分子間スピン相互作用が可能となったものと考えられる。 3.チエノチオフェンのπ共役系を介するスピン相互作用 ホスト分子の剛直部分構造を担うチエノチオフェンの2種の異性体について,二つのニトロニルニトロキシドおよび二つのイミノニトロキシドを置換させたビラジカル分子種をそれぞれ合成した。それらのπ共役系を介する分子内スピン相互作用を,ESRと磁化率の温度変化を測定することにより検討した。その結果,いずれにおいても,分子内の強い反強磁性的相互作用が認められた。
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