研究概要 |
有機金属錯体の光分解で生成する金属錯体ラジカル、有機ラジカルの動的挙動をESR、NMRなどの磁気的方法を用いて明らかにする。本年度は特異な性質で注目される含硫黄遷移金属錯体メタラジチオレン(金属=Ni,Pa,Pt)のS,S'-ジベンジル付加体の光反応について、時間分解ESRを用い、金属錯体ラジカルの特異な性格と動的挙動を解明した。 S,S'-ジベンジル-ビス(1,2-ジフェニル-1,2-エチレンジチオラト)金属(金属=Ni,Pa,Pt)のベンゼル溶液に紫外線を照射すると2個のベンジル基が脱離し、遊離のジチオラト金属錯体が主成する。この反応において時間分解ESRを測定したところ2種類のスペクトルが得られた。一つはベンジルラジカルのものであり、他は金属錯体ラジカルで中心ニッケル上に不対電子が局在した電子状態を持つものであると帰属された。 この金属錯体ラジカルは室温で100秒以上の寿命を持ち、熱的に1個のベンジルラジカルと遊離のジチオラト金属錯体に分解していく極めて興味深いラジカルであることがわかった。 さらに、時間分解ESRの分極が吸収/吸収であることから、ラジカル対を与えてジベンジル付加体の励起状態が三重項状態であることがわかった。 金属錯体ラジカルの性格を中心金属の種類との関連で追究したところラジカルの安定性はPd>Ni>Ptの順でPdの錯体は非常に安定である。 以上によって、分子磁性の動的挙動の解析によって、特異な金属錯体ラジカルを発見するとともに、光解離反応の外構を完全な形で解明することができた。
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