研究概要 |
平成4年度においては,物理教育用の簡易型電子スピン共鳴分光計を本補助金を用いて購入した。この分光計はより高価な汎用の装置に比べて二桁ほど感度が落ちるが,有機磁性体のような比較的線幅が狭く強い吸収を示す試料の場合には,室温においても十分な測定感度を有することを確かめた。室温以下の温度での測定を可能にするために,温度可変用共鳴空胴およびクライオタットを設計試作した。本研究代表者は,有機中性ラジカルの3-キノリルニトロニルニトロキシド(3-QNNN)が分子間強磁性相互作用を示す分子磁性体であることを,SQUID磁力計を用いた磁気測定を通して平成4年初頭に発見した。3-QNNNの常磁性磁化率は,Curie-Weiss則に従いWeiss定数が正の値0.27Kを示す。また1.8Kにおける等温磁化曲線は,スピン多重度S=1に対するBrillouin関数にほぼ従う。温度の上昇とともに,実測の等温磁化曲線はS=1/2の関数に近づく。これらの結果は3-QNNNにおいて分子間強磁性相互作用が働き,温度低下とともに強磁性短距離磁気秩序が形成されていくことを示している。3-QNNNの電子常磁性共鳴を4〜300Kの温度範囲で測定し,g因子すなわち共鳴磁場が温度低下に伴い室温での値から大きくずれることを見いだした。g因子のずれは異方的であり,静磁場が結晶のc軸に平行な場合のg因子は増加し,a*軸に平行な場合は減少する。g因子の変化分は磁化率の変化に対応しており,低温における強磁性短距離磁気秩序の形成によって生じる内部磁場が,共鳴磁場のずれをひき起しg因子を変化させるものと考えられる。有機中性ビラジカルの2,6-ピリジンビス(ニトロニルニトロキシド)の磁気測定を行ない,ビラジカル分子内の2個のスピン間に強磁性相互作用が働き,ビラジカル分子間に反強磁性相互作用が働くことを見いだした。したがって,このビラジカル分子のスピン多重度はS=1であり,その錯体において有機フェリ磁性体を得る可能性がある。
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