研究概要 |
1.ガルビノキシルおよびニトロニルニトロキシドラジカルの電子構造における特性を設計指針の原型とし,新分子性強磁性体の実現を目指す研究を行っている.これらのラジカルの分子特性は,ヘテロ原子ラジカル,奇交互型共鳴系,嵩高い置換基にある.この結果,中性ラジカルの安定化および強磁性的スピン整列が達成されている.フェナレニル系を含む1,3-フェナレノキシルラジカルは上記のような特性を供えた新しい拡張共役型中性ラジカルと見なすことができる.本研究では,(a)フェナレニル型共役系を用いた新しい安定中性ラジカルの設計,合成,(b)置換基の立体的,電子的効果によるラジカルの安定化および分子配列の制御の研究を行っている. 2,3.フェナレニル骨格を持つ安定中性ラジカル,即ち室温で単離可能なラジカル,は未知である.そこで既知化合物を含め合成が容易と考えられる誘導体を合成し,対応するラジカルへの酸化反応を検討した.先ず,不安定なラジカルを電子的,立体的に保護する必要があると考え,1,3-フェナレノキシル体の2-位にフェニル基を導入した前駆体であるヒドロキシエノン体をいくつかの酸化剤(K_3[Fe(CN)_6],PbO_2,Ag_2CO_3など)で処理した.得られた生成物の構造は目標とするラジカルが二量化したと考えられる化合物であった.構造は通常の化学的手段に加え,X線結晶構造解析も行って決定した.二量体の生成は目的とするラジカルの電子構造から推定できるが,PM3法によるスピン密度の分子軌道計算から2位のスピン密度が最も高いという結果とも対応している.フェナレノキシルラジカルの安定化にはより嵩高い置換基の導入が必要性であることを示唆しており,今後の重要な設計指針を得た. 同様のアプローチは1,6-フェナレノキシル体にも適用でき,その前駆体の合成を終えており,酸化反応を検討している.今後は電子的効果を調べるために,電子供与性,電子受容性のいろいろな置換基の導入を検討したり,Captodative効果についても検討し,ラジカルの安定化,分子配列への効果を調べる.
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