研究概要 |
本研究はab initio分子軌道法計算を中心とする大規模理論計算によって複雑な有機反応の立体および位置選択性の発現要因を解明し,これを実験結果に照らして評価しながら,理論化学を駆使した新有機反応の設計を行なうことを目的として行った. 実際の研究標的としては,近年の理論有機化学での重要課題である有機金属化合物の反応の選択性について,不斉合成の手法として注目を集めつつある炭素-炭素多重結合などのC=X結合への有機金属化合物の付加の立体選択性を中心に研究を行った.実験的に重要なアルキル金属,アリル金属,および複数金属のかかわる一連の反応系について実験系になるべく近いモデル化を行ない,反応の遷移状態の構造とエネルギーをab initio分子軌道法で求め,これをエネルギー分割法などの理論的手法を活用して解析することで有機金属化合物/反応基質間の相互作用の決定因子を明らかにした. これまで行ったカルボメタル化反応に関する研究を展開すると同時に,その結果を利用して,有機金属化合物とシクロプロペンとの反応を中心に高歪み化合物の高い反応性の起源を明かにすべく,エチレン,アセチレン,シクロプロペンとメチルアニオン,メチルリチウム,メチル銅の反応の遷移状態を求め,これらの構造とエネルギー状態を詳細に分析した. また,4中心型カルボメタル化の遷移状態の研究を展開し,メタロエン反応と通称されるアリル金属とオレフィン類の反応を検討した.さらに今後の展開を考慮しつつ,以上の反応における現実的な反応剤であるbimctallicな有機金属化合物に関する予備的検討を開始した. 申請者自身の実験グループで行なう先端的有機反応開発の実験結果との頻繁なfcedbackを最大限に活用しながら理論化学の反応設計における有効性を実証し,1990年代有機化学の最重要課題である触媒的不斉合成への展望を切りひらく事ができた.
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