研究概要 |
哺乳動物の中枢神経伝導路の再構築の可能性を明らかにするために、新生ラットの脊髄髄節を胎児ラットの相同部位で置換する実験を行った。エーテル麻酔下に宿主の下部胸髄を1.5〜2.0mm(平均1.87mm)の距離で2カ所切断し、吸引によりその部分(1.5〜2髄節に相当)を完全に取り除いた。一方,ペントバルビタール深麻酔下の妊娠ラットから胎児を取りだし、その脊髄を摘出し、切除された宿主の髄節と等長かつ相同部位を含むような部分を切り出した。そして宿主脊髄の吻側と尾側の断端がそれぞれ移植片の吻側と尾側の断端と密着するように移植した。対照実験としては髄節を切除した空所を組織で埋めることなく放置し、あるいは空所に成熱ラットから摘出した座骨神経の移植を行った。移植髄節の生着が成功した例では、移植片によって脊髄は完全につながっており、切片標本によっても宿主の脊髄と移植片の間に境界を認めることはできなかった。WGA・HRPや蛍光色素の順行性・逆行性標識法で検索してみると移植片を架橋として上位脳と腰膨大の間には錐体路や赤核脊髄路を含む強力な神経結合のできていることが確認された。移植片は白質と灰白質という脊髄特有の組織構造を示し、灰白質には多数の神経細胞が存在し、その中の相当数が腰膨大に注入した蛍光色素により標識された。前角にはこの注入で標識されない細胞で特徴的な形態から運動神経細胞と判定できるものが数多く存在した。また移植片には前根と後根の出入も認められた。腰膨大への蛍光色素注入により、対照例のうち板植を行わなかった例では上位脳に標識細胞は認れられなかった。しかし,座骨神経移植例では、従来の報告に一致して、上位脳には少数の標識細胞が認められた。移植髄節が生着した例では、対照群と異なり、いずれも正常ラットにおけるような前肢と後肢の協調した歩行が観察され、排尿排便の障害も認められなかった。
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