研究概要 |
尿素サイクルは有毒なアンモニアを尿素へと変換して解毒する代謝酵素系であり5種類の酵素によって形成されている。全5酵素は肝臓において選択的に高レベルに発現する。我々は従来より本サイクルの3酵素の遺伝子について,その肝臓選択的転写の制御機構の解析を行ってきた。特にその2番目の酵素であるオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)のラット遺伝子について,これまでにその肝臓選択的転写にCOUP-TF/HNF-4関連因子が関与することを明らかにした。HNF-4(hepatocyte nuclear factor-4)及びCOUP-TF(chickenovalbumin upstream promoter-transcription factor)は共にステロイドレセプター・スーパーファミリーに属する因子である。本研究において,両因子のOTC遺伝子の転写に対する効果を解析した。COUP-TF及びHNF-4(姫路工大・大隅研究室との共同研究)のcDNAをCOS細胞において発現させ,ゲルシフトアッセイによりこれらの因子が共にOTC遺伝子のプロモーター及びエンハンサーの合計4ケ所の領域に結合可能であることを示した。さらに培養肝癌細胞への共導入実験により,OTCプロモーターに対して,HNF-4が促進的に作用する一方,COUP-TEは抑制的に作用することを示した。肝臓選択的な因子であるHNF-4はOTC遺伝子の肝臓特異的転写に重要な役割を演じているものと考えられる。一方,汎在性の因子であるCOUP-TFはOTC遺伝子の肝臓以外の組織での抑制に関与する可能性が考えられる。しかし,COUP-TFは他の数種類のプロモーターに対しては促進因子としても作用した。このような,汎在性の転写促進因子による組織特異的な遺伝子の抑制,及び組織選択的な数似因子による当該組織におけるその抑制の解除は,遺伝子の転写の組織特異制の決定機構として潜在的に重要な機構であると考えられる。
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