研究概要 |
我々は後天性溶血性貧血の一つ発作性夜間血色素尿症(PNH)にガングリオシド(GS)の発現異常を検出し他の糖脂質や糖蛋白異常と考え合わせてPNHの細胞膜複合糖質代謝異常としての可能性を示した。このGS異常の検索はGPIアンカー部糖鎖合成不全の解析にも寄与し,PNHの異常溶血の分子機構の解明にも貢献しうると考え,GS発現様式のPNH診断への応用,GS異常発現の病態生理学的意義の検索、さらに糖鎖合成不全の分子機構の解明を目的としPNH研究を進めてきた。PNH赤血球におけるGSの発現異常は2-6SPGを含む複数のGSの発現低下および総GS量の増大(特にGM3,2-3SPG)であり、多施設の協力により現在までに20症例解析してこれらのGS異常を確認できた。次に最も顕著な変化を呈する2-6SPGに着目して臨床診断応用目的で抗2-6SPG特異抗体を用いたPNH赤血球識別を試みたところ、TLC免疫染色法によるPNH-GSの検出は可能であったがFACSによる異常赤血球識別は不可能であった。最後に異常発現の病態生理学的意義を探る目的で赤血球の易溶血性変化に関与するか検討した。ヒト赤血球由来のGSをin vitro incubationにて赤血球膜に取り込ませ補体感受性溶血性変化を検索した。その結果GSは補体第二経路の活性化を介する溶血とさらに別の未知の機構によると思われる溶血を生じた。この結果はGSの新しい生物活性をも示している。以上の結果をまとめると、PNH赤血球膜にはGSの複数の発現異常を認める。その一部は赤血球膜の脆弱化ならびに補体第二経路の活性化亢進を促し溶血に寄与しうる。溶血を招く膜補体制御因子の発現異常もGPIアンカー部糖鎖の合成不全が考えられ、PNHにおける異常溶血は血球膜主要複合糖質代謝異常を反映している可能性がある。
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