温度感受性の突然変異のSV40(tsA58)ラージT抗原遺伝子を導入したトランスジェニックマウスより樹立した機能細胞株の非許容温度での増殖停止と細胞死に関与する因子の解明と、増殖停止と細胞死を抑制する遺伝子を検索することを目的とした。 肝細胞株(TLR2)、腎内皮細胞株(TKD2)、尿細管細胞株(TKC2)は、突然変異の非許容温度で増殖を停止する。この増殖停止を高濃度血清、PDGF、IGF-I及びIGF-II、bFGFを加えることで回復できるかを観察したところ、TLR2はこれらの因子によっては増殖、細胞死とも回復しなかった。TKC2は細胞死を起こす前の増殖にすべての因子が効果的であったが、細胞死の時期を変えることはできなかった。TKD2は細胞死をあまり誘起しない細胞株であるが、この細胞株ではFGFが全く効果がみられない以外は増殖を促進した。これらの結果は、細胞の分化形質によってSV40ラージT抗原の作用点が異なることを示唆するものである。また、温度シフトによるラージT抗原の機能喪失が細胞死を誘起するか否かも分化形質によって異なることが分かった。ラージT抗原との結合が知られているp53について調べたところ、三株すべてにおいて野生型のp53タンパクを特異的に認識する抗体でのみラージT抗原が免疫沈降され、不死化された細胞株では野生型のp53が機能していると考えられた、このことは、ラージT抗原による不死化と、その機能を喪失させたときの細胞死が、野生型p53の量的変動の結原と推察することができた。単純なモデルとしては、ラージT抗原によるp53の機能阻害が不敷化を誘導し、ラージT抗原の温度シフトによる不活性化が機能的p53の増加を引き起こし細胞死を誘起すると推定され、順次検証して行く予定である。
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