研究概要 |
本研究の目的は細胞複製過程におけるCa^<2+>を中心としたシグナル伝達の分子機構を明らかにすることである.具体的には,酵母の性フェロモンによって誘導されるCa^<2+>の流入,または流入したCa^<2+>の受容または伝達に欠損をもつと考えられる突然変異株群(mid1〜mid5)を解析することにより,Ca^<2+>シグナルの発生から受容・伝達に至るまでの遺伝子ネットワークを明らかにすることであった.本年度は特にCa^<2+>の流入に欠損をもつmid1株と,流入したCa^<2+>を受容または伝達できないmid2株をそれぞれ相補する遺伝子(MID1とMID2)を単離し,構造解析と両遺伝子の破壊株の細胞周期に関する解析を行った.その結果,MID1遺伝子は548アミノ酸残基から成り,疎水性領域を4ヶ所もつタンパク質をコードしていることを明らかにした.その領域の1つのアミノ酸配列は動物細胞の種々のイオンチャネルの膜貫通領域のアミノ酸配列と相同性があった.MID1遺伝子破壊株の解析から,MID1遺伝子は生育に必須の遺伝子であり細胞周期のG_1期における出芽とM期における核分裂に必要であることが分った.一方,MID2遺伝子産物は376アミノ酸残基から成り,膜移行のためのシグナル配列,動物細胞のイオンチャネルと相同な膜貫通領域を1つおよびCa^<2+>結合領域と考えられる領域を1つもっていることを明らかにした.MID2遺伝子破壊株は正常に増殖できた.両遺伝子間の相互作用を調べた結果,MID2遺伝子はmid1変異を抑圧できるが,MID1遺伝子はmid2を抑圧できなかった.このことは,一連のCa^<2+>シグナルのカスケードのなかで,MID2遺伝子産物はMID1遺伝子産物の下流で働くことを示している.この遺伝学的結論は,mid1変異株はCa^<2+>流入に欠損をもち,MID2遺伝子産物はCa^<2+>結合領域をもつという上述の知見をうまく説明できる.
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