研究概要 |
1,エネルギー産生低下以外のミトコンドリア機能と細胞死 一般に酸化的リン酸化によるATP合成なしでは、ほ乳類細胞は生育できないと考えられてきた。ところが、ミトコンドリア脳筋症患者からは酸化的リン酸化なしに生育できる細胞が分離できた。さらに、ミトコンドリアの形態はあるがミトコンドリアDNA(mtDNA)を全く持たない細胞株(EB8)を分離できた(埼玉ガンセンターの林純一らとの共同研究)。この細胞は解糖系で合成されるATPを用いて生育しているはずである。呼吸鎖酵素の複合体I,II,IVとATP合成酵素のサブユニットの一部はmtDNAにコードされているが、複合体II(コハク酵ユビキノン酸化環元酵素)はすべてのサブユニットが核遺伝子産物である。EB8に複合IIの阻害剤であるTTFA(thenoylt rifluoroaceton)を作用させると8時間以内に死滅した。他の複合体の阻害剤では効果はなかった。分子機構は不明であるが、ATP産生と無関係にミトコンドリアの機能異常が細胞を死に至らしめる概念が必要であることを示している。 2,アポトーシス(プログラム化された細胞死)におけるミトコンドリアの役割 Fas抗体はFas抗原に結合してアポトーシスを引き起こす。上記のEB8細胞にFas抗体を作用させると10ng/mlの低濃度でもDNAの分画化が始まりアポトーシスによって細胞は死滅した。一方、対照としてEB8にミトコンドリアを導入した細胞にFas抗体1μg/mlを作用させてもアポトーシスは起こらなかった。しかし、対照群に種々の酸化的リン酸化阻害剤を作用させるとEB8ほど顕著ではないが、Fas抗体によるアポトーシスは開始された。分子機構は不明であるが、アポトーシスへミトコンドリア機能が関連していることが示された。
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