研究概要 |
大腸菌からヒトに至る種々の生物において、全ゲノムの解析を目指すゲノムプロジェクトが進んでいる。このプロジェクトの達成には、先ず対象となるゲノムを出来るだけ大きなCNA断片として安定にクローン化することが必要である。巨大DNAのクローン化には、大腸菌のコスミドべクターが広く使われている。ところが組換え体コスミドを大腸菌で増殖させると、クローン化DNAが非常に高頻度でコスミドから脱落してしまい、クローニングの大きな障害となっている。一般的組換え能を欠いたrecA大腸菌を宿主に用いても、高頻度の欠失が起こる。我々はrecB recC recJ菌で、この欠失が阻止されることを見つけた(Ishiuraet al.,1989,J.Bacteriol.171:1068-1074)。さらに、マウスゲノムDNAをインサートとするcMB15をrecA菌HB101で継代し、欠失DNAを単離してその欠失部近傍の塩基配列を調べた。欠共は10bp前後の完全な相同塩基配列を介して起こっており、欠失部位の近傍には、T-ストレッチ(及びその相補配列であるA-ストレッチ)や8塩基配列(及びその相補配列)が常に存在する(Ishiura et al.,1990,J.Gen.Microbiol.136:67-79)。したがって、コスミドDNAの欠失は、recAに依存しない遺伝子組換え機能(未知のものである可能性が高い)が、ある特定の塩基配列を認識することにより起こると推定される。 本研究では、ヒトEF2遺伝子を含むコスミドクローンcHEF2-12をrecA菌HB101で継代し、欠失DNAを単離してその欠失部位近傍の塩基配列を調べた。欠失はすべてAlu配列中の10bp以上の完全な相同塩基配列を介して起こっていた。cMB15の場合と同様に、欠失部位の近傍には、T-ストレッチ(及びその相補配列であるA-ストレッチ)や8塩基配列(及びその相補配列)が存在した(Ishiura et at.,1993,J.Bacteriol.,submitted to)。 さらに遺伝子組換えに関与する、発現レべルの低い遺伝子の発現を連続自動測定する目的で、バクテリアルシフェラーゼ遺伝子のluxA luxBオぺロン遺伝子発現のリアルタイムレポーターに用いることを検討した。バクテリアルシフェラーゼ遺伝子は、原核生物である藍色細菌の生物時計のリアルタイムモニタリングの非常に優れたレポーターである(記載文献)。recAプロモータの下流にluxA luxBオぺロン遺伝子を連結し、大腸菌に遺伝子移入した。細胞をUV照射し、recAプロモータを活性化することにより、uxA luxBオぺロン遺伝子が発現してルシフェラーが合成され、発光基質n-decanalの存在下で生物発光が観察された。リアルタイムモニタリングの生理的条件下でCCDカメラにより測定でも、各コロニーから十分に強い発光を得た。発光レべルはUV照射後少なくとも6時間ほぼ直線的に上昇した。今後他の組換え遺伝子への応用を考えている。
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