研究概要 |
熱帯・亜熱帯における重要な果樹害虫ミカンヒミバエ・ウリミバエなどDacus属のミバエ類の雄成虫は,寄主植物とは全く無縁の特定の植物に強く誘引され,その植物組織を摂食する行動を示す。ミカンコミバエにおいてはメチルオイゲノール,ウリミバエではキュールアがその特異的な誘引因子として知られている。本年の研究では,これらり物質を含まない植物における誘引因子の化学的解明を行ってきた。その結果Spathiphillum属の花よりこれまでの未知であったtrans-Coniferyl alcoholを明らかにし,特にマレーシア南部に分布するミカンコミバエ個体群(Mal A型)との間に受粉を介した共生的な関係にあることが分かってきた。誘引成分を摂取した雄成虫は同物質をフェロモン分泌器官と考えられている直腸腺に貯蔵することが半明し,配偶行動における役割について検討した。また,一連のフェニルプロパノイド系物質の生理作用から,防御物質としての虫体内蓄積の可能性が高く,これを証明するために各種天敵動物を用いた生物検定を行った。鳥,爬虫類についでクモ類に対する毒作用も明かになり生態学的適応のメカニズムを解析中である。一方,ウリミバエの場合,訪花するラン科植物の花組織,品種間,あるすは受粉前と受粉後の誘引成分の差異など植物組織学,生理学的な観点から化学分析し,「共進化」を裏付ける特異的相互関係を究明するための基礎的データを得ることができた。一右,ミカンコミバエは地理的あるいは寄主植物により複雑に分化した形態学上分類の困難な種(亜種)群から成り立っている。訪花などにより蓄積される直腸腺揮発成分のプロフィールの系統間での違いは,個体群を特定する有力な手段となり得ることが今回の調査により明かになった。
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