研究概要 |
本研究は、植物細胞の液胞膜に存在する2種類のプロトンポンプ、すなわちH^+-ATPaseとH^+輸送性ピロホスファターゼ(H^+-PPase)について,その分子構造と生理学的機能の特質を明らかにすることを目的とした。それぞれについて以下の点を明らかにした。 1 H^+-ATPase:液胞膜H^+-ATPaseは9種のサブユニットで構成され、16kDaサブユニットが典型的な膜内在性であり、プロトンチャネルを形成すると同時に、他のサブユニットの膜局在化の構造基盤ともなっていることが明らかになった。cDNAが得られたオオムギ酵素の68kDaサブユニットについてみると、アミノ酸621個から成り、ATP結合部位を含め他生物種の配列と高い相同性が確認された。 2 H^+-PPase:H^+PPaseは73kDaタンパク質のみで構成される酵素であり、植物界(種子植物、シダ類、藻類、コケ類)に広く分布し、分子サイズもほぼ同じである。大麦酵素のcDNAを解析した結果、761個のアミノ酸から成り、少なくとも11個の膜貫通領域をもつことが明らかになった。すでに報告されているシロイヌナズナの酵素とは86%の相同性を示した。また、ミトコンドリア型あるいは液胞型ATPaseのプロトンチャネルタンパク質と相同な構造も見いだされ、このタンパク質が一次構造上もプロトン輸送機能をもつことが明らかになった。 3 2種プロトンポンプの機能的、生理的特性:PPaseとATPaseの分子活性は、それぞれ15sec^<-1>,40sec^<-1>(複合体当り)で、後者が高いが、ヤエナリ胚軸での存在量は、PPaseがATPaseの10倍多い。したがって総合的には、液胞酸性化に対するPPaseの寄与度が高く、実測値もこれを支持した。植物細胞特有の巨大な液胞はプロトンポンプに大きな負荷がかかる。植物液胞の酸性状態は、ATPaseのみでなくH+-PPaseの共存によってはじめて可能であると考えられる。
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