研究概要 |
葉緑体の光障害は過剰な還元力が活性分子を生成し,それが葉緑体成分を酸化分解することにより生じる。循環的電子伝達反応は,光合成により過剰に作られた還元力の分配調節を司ると考えられていて,この反応にはNADH-プラストキノン酸化還元酵素と,チトクロムb6/f復合体とは異なるヘム蛋白質の関与が示唆されている。しかし,高等植物ではその生化学的実態は明らかではない。そこで本研究課題では,循環的電子伝達反応に関与する蛋白資の講造とその遺伝子発現制御機講を明らかにすることを目的として以下の研究を計画した。1)高等植物のNADH-デヒドロゲナーゼとヘム結合蛋白質を同定し,その溝造を明らかにする。2)上記蛋白質および遺伝子の発現制御機構を解明する。3)上記蛋白遺伝子を導入した形質転換植物を作成し,そのストレス耐性能を解析する。 平成4年度はDNAH-デヒドロゲナーゼのサブユニット(ndh E)とチトクロムfと共転写されるOPF230をクローニングし,大腸菌で発現させ,その遺伝子産物に対する抗体を作成し,これら蛋白質の葉緑体内局在部位を同定することを中心に研究を進めてきた。また,同時に循環的電子伝達系の活性と環境応答の関係についても検討してきた。具体的には,1)イネ葉緑体DNAのndh EとORF230遺伝子をPCR法を用いて増幅した。それぞれの遺伝子にはBam HIとPst Iの制限酵素サイトを作りpUC118にクローニングした。2)ndh EとORF230をβ-ガラクトシダーゼ遺伝子が3'側に融合した遺伝子を作成して発現ベクターに組み込み,大腸菌で発現させた。融合タンパク質を大腸菌から精製し,これを抗原として抗体を作成した。これら遺伝子産物の局在部位をウエスタンブロテイング法で検索中である。3)発芽後25日経過したインゲンマメの初生葉は老化によりCO_2取り込み速度でみた光合成活性が低下していたが,本葉切除に伴いC原_2取り込みおよび酸素発生速度が急増した。このとき気孔の開閉および光化学系蛋白質はほとんど変化していなかったが,RuBisCOの蓄積量が増加していた。今後,この段階の循環的電子伝達系について検討する予定である。
|