研究概要 |
本総合研究は,戦前から今日までの間に日本本土へ渡った沖縄出身者のさまざまな生活体験に関する調査を通して,沖縄の人々が本土の文化的環境に対して抱いた違和感,あるいは沖縄と本土との文化差という問題を明らかにする目的で実施してきたものである。本土から沖縄ヘ帰郷した人々(いわゆるUターン者)の行動様式にはどのような特徴があるのか。また,人々は本土における生活体験をどのように概念化しているのか。この問いに答えるために,本研究では,いくつかの具体的なテーマを立てて現地調査を行った。その結果は以下の通りである。酒井は,戦前に紡績女工として関西地方へ出稼ぎに行った女性たちが故郷に紡績歌を持ち帰り,それが現在の島歌の一部,さらにはシャーマン的職能者(ユタ)の儀礼歌として定着していることを報告している。大越は現代のUターン者たちが地域社会を活性化させるための諸活動,シマ起こしの重要な担い手になっていることに注目する。石川は,帰郷者たちのライフ・ヒストリーを分析し,人々の行動様式の中に,経済的理由や都会への憧れによる本土行だけではなく,本土での一時的な生活体験を一種の通過儀礼とみる社会通念を指摘している。また,近代史の文脈で,戦前の台湾,ミクロネシアなどへの出稼ぎ体験も,もう1つの重要な研究課題である。喜山は,農民のライフ・ヒストリーの研究から,戦前のミクロネシアへの移住の実態を報告している。笠原は,漁民の南方への出漁,そして植民地時代の台湾と沖縄の関係に注目し,沖縄出身者の独特なアイデンティティの問題について概括的な考察をしている。この総合研究は,沖縄の人々の移住,出稼ぎ,帰郷など,人的移動を視野に入れた独自の研究を目指したもので,文化人類学と近代史・現代史との接点を探る試みと言ってもよい。2年間の研究によって,新しい沖縄研究の方向を示すという当初の目的は達成できたと考える。
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