研究概要 |
本研究では,生活基盤施設の整備やその提供方法といった「上からのアプローチ」と市民参加を基盤とした地域起こしに見られる「下からのアプローチ」の両者を軸に,山間地域が抱える過疎問題を検討した. 前者については,生活を維持するために最低限必要な生活支援サービスの欠如が住民のやむをえぬ離村とそれに伴うコミュニティの崩壊をもたらすとの認識から,消防,救急医療,災害救助,警察といった緊急安全サービスに着目し,概念整理と新たな計画論の必要性を論じた.そして,救急医療サービスに関する事例研究を行い,サービス提供水準指標の開発,サービス改善方策の効果分析,便益測定,医療施設の経営成立性分析などからなる包括的な計画の方法論を提案した. 後者については,ライフスタイルの変化が人々と山村の関わり方に変化をもたらしつつある点に着目し,居住,レクリェーション,環境,水資源,農業生産等の観点からその変化をとらえ,それぞれの活動に直接関わる人々の意識や行動を分析することにより,今後の動向と山村の役割を展望した.また,過疎地の活性化活動を,リーダーとフォロワーの関係に焦点を当ててモデル化し,リーダーシップのとり方と構成員の満足度との関係等の理論分析を行った. 本研究では,北海道,中部,山陰,四国,九州に在住する研究分担者と米国オレゴン大学およびスイス国チューリヒ工科大学研究グループがそれぞれの地域をフィールドとして行った調査や事例研究を縦糸とし,土木計画学,地域経済学,地理学,社会学,政治学,農業経済学といったさまざまな観点から行った分析結果を横糸として,共通の場で討議することにより多くの知見を得ることができ,総合研究の名にふさわしい有機的な研究遂行が可能であった.得られた研究成果は学会で報告するとともに,山間過疎地計画論としてとりまとめ出版する予定である.
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