研究概要 |
本研究の目的は,ポジショナルクローニング(positional cloning)の手法を用いて遺伝子神経疾患の原因遺伝子を解明し神経細胞の変性の分子メカニズムを明らかにしようというものである.主な対象として,遺伝子性脊髄小脳変性症の中でも,(1)Machado-Josepん病,(2)歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(dentatorubral-pallidoluysianatrophy),(3)低アルブミン血症を伴う脊髄小脳変性症を対象として,その原因遺伝子の探求を行った. Machado-Joseph病については,連鎖解析という手法により6家系のMachado-Joseph病家系の詳細な解析を行い,多点連鎖解析で,D14S55の位置で最大のロッド得点9.719が得られ,Machado-Joseph病の遺伝子座が第14染色体14q24.3-32.1に存在することを発見した.D14S53,D14S45の位置での組み換え例の観察から,その遺伝子座の存在する領域は,D14S53とD14S45の間の29センチモルガンの領域であることを確定した.歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)は常染色体性優性遺伝子を示す脊髄小脳変性症の一つであるが,本疾患の病因遺伝子の探索に当たって,われわれは何らかの3塩基繰り返し配列を有する遺伝子であろうとの仮説を立て,既知の遺伝子で3塩基繰り返し配列を有する遺伝子を有している遺伝子に着目して検索を行い,その結果,第12染色体に存在する本症の病因遺伝子を発見することができた.特に,従来からよく知られていた本症における臨床的多様性が3塩基繰り返し数の増大の程度とよく相関することを発見し,3塩基繰り返し数の増大の程度が病態機序の上で密接に関連することを明らかにした.低アルブミン血症を伴う脊髄小脳変性症は常染色体劣性遺伝子を示す疾患であるが,連鎖解析の結果からその遺伝子座が第9染色体にあること,臨床的には本症がフリードライヒ失調症に類似するものの病因遺伝子を異にする可能性が高いことを明らかにした.
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